新潟県長岡市(旧三島郡越路町)の高橋ハナさんの昔話。昔話独特の語り調子と、いきいきしたリズムが分かるとお話が語り始めます。ぜひCDでむかしばなしを聞いてみてください。
馬方と鬼ばさ(かくれ話)
あったてんがの。
あるどこへ、馬方(うまかた)があったてんが。
あるどき、魚屋から魚いっぺえこうて、魚を馬の背につけて、峠越えしているてんがの。
峠にかかると、へえ、日暮れ時で、人の通りのないてんがの。馬方は
「はや、いごう」
と思うて、馬の尻(けつ)たたきたたき行ったてんがの。
ほうしると、後ろの方で
「あの、馬方」
とよばる声がしるてんがの。
見たれば、白髪(しらが)ばっかのばさがいるてんがの。馬方が、
「おれに何用事だ」
と聞くと、ばさが
「おれにその魚一匹くれ」
とようんだんが、馬方が
「この魚はおれの魚でねえ。峠の向こうに運ぶがんだ。やるわけにいかねえ」
そうようて、馬引っぱっていったてんがの。
ほうしると、馬がチョコンと止まって、あえばん(歩かない)てがの。
見たれば、ばさが、馬の上に上がって、その魚取ろうとしているてんがの。
ばさの口は耳まで裂(さ)けている、おっかなげな鬼ばさだてんがの。
それを見たれば、馬方はおっかんなって、馬も魚もおっ放して、逃げだしたてんがの。
ドンドン逃げていったれば、山の中へちんこい小屋があったてんがの。馬方は、
「こらいいあんばいだ。ここへ入って泊めてもろう」
と思って
「今晩は、今晩は」
と声かけるろも、返事がねえてが。
「はて、こらあき小屋だかな」
と思って中へ入ってみるろも、だれもいねえし、押し入れの中見たれば、薄い布団があったてんがの。
「こらいい」
とその布団の中へ入っていると、だれか来たよう音がしると。
「はて、家の者が来たふうだ」
と馬方がのぞいてみると、さっきなの鬼ばさだったてんがの。
「こらまあ、おごとら(困った)ねか」
と馬方は、押し入れの中でちんこくなっていたてんがの。鬼ばさは
「やれ、さぶい(寒い)、さぶい」
とようて、入ってきたけや、
「さぶいすけ、木のからと(櫃)に寝ようか。石のからとに寝ようか」
とようんだんが、馬方が
「木のからと、木のからと」
とようたと。ばさは
「そうか。神様が木のからとというんだんが、木のからとに入って寝よう」
とようて、木のからとに入って寝たてんがの。
馬方が、木のからとに、きりでキリキリ穴開けたてんがの。ばさは
「おっこ、キリキリ虫が鳴かや」
そうようていたてんがの。
ほうして馬方は、お湯沸かして注ぎ込んだれば、鬼ばさは、死んでしもうたてんがの。
いきがさけた。
……読み比べてみたい昔話
共に<かくれ話>をテーマとしたお話です。