新潟県長岡市(旧三島郡越路町)の高橋ハナさんの昔話。昔話独特の語り調子と、いきいきしたリズムが分かるとお話が語り始めます。ぜひCDでむかしばなしを聞いてみてください。
しっぺい太郎(おろかな動物)
あったてんがの。
あるろこへ年よりの琵琶ひきの坊さんがあったてんがの。
村から村を琵琶をひきながら回って、銭もろうたり、米もろうたりして暮らしていたてんがの。
ある山の中で日が暮れて、泊まるどこがないかと捜していたれば、ふるしい堂があったてんがの。
屋根も壊れているし、縁板(えんいた)も取れているし、荒れた堂だんがのし、
「なに神様だか、わからんども、こんにゃここへ泊めてもらいますすけ、お願いします」
とようて、中へ入って見たれば、クモの巣だらけ。
琵琶を枕に、トロトロと眠っていたてんがの。
夜中に目が覚めてみたれば、なんだかドヤドヤ音がしるんだんが、月の明りで外を見たれば、けものだか、化け物だかわからんが、おおぜい寄って、歌ったり、踊ったりしているてんがの。坊さんは
「はて、おら、とんだとこへ来てしもうた。おら、どっげのめにあわされるか分からん」
とすみっこにちんこなっていたと。
「なにようて踊っているがらろ」
ときいていたれば、
「月夜の晩に、月の光に、踊れ、踊れ。しっぺい太郎にきかせるな」
とようて踊っているてんがの。坊さんは
「はて、こらあ、不思議なことら」
と思うて、きいているろも、それがなんのけものだかわからんだと。
ほうして、坊さんも、ウトウト眠ってしもうたと。
あさげになって、
「タベは夢やら、なにやら、わからんども、何事もなくて良かった」
と喜んで、神様にお礼をようて、山を下りていったてんがの。
山のふもとに村があって、村のショが集まって、なにやら心配げにしているてんがの。
坊さんが
「おまえさんたち、何があったがら」
と聞いたと。村のショが
「今日は、鎮守様のお祭りで、庄屋の一人娘を、鎮守様にあげることになっているのだ」
とお(教)せてくれたと。坊さんは
「そうか。その庄屋の家はどこだ」
と聞いて、行って見たれば、みんな泣いているてんがの。庄屋が
「この村では、毎年村の娘を神様にあげることになっている。今年は、おらの一人娘をあげることで、かわいそうでならね。あげねば、大水、大風、大火事とさまざまの災難があっておおごとら」
とようたと。坊さんは
「この村にしっぺい太郎という人がいねか」
と聞くと、庄屋が
「しっぺい太郎という犬が、大工どんの家にいるが、人はいない」
とようたと。坊さんは
「そうか。そのしっぺい太郎を、娘の代わりに桐箱の中にいれておくが良い。心配しることはない」
とようんだんが、そのとおりすることになったと。
娘の代わりに桐箱に入れて、ようさる、村のショがお堂においてきたてんがの。
神様がどっげの罰をあてるか村のショは家へ入って、戸を閉めて震えていたと。
夜が明けて、坊さんが
「これからお堂に行って見よう」
とようろも、村のショは、おっかんがって、恐る恐る行ってみたと。
鎮守様に行って見たれば、桐箱はグチャグチャに壊れて、血だら真っ赤になっていて、たまげてしもうたと。
しっぺい太郎はへら(舌)を、長く出して、ハア、ハアとようていたと。
そばに針金のような毛のミジナ(ムジナ)が、食い殺されていたてんがの。坊さんは
「しっぺい太郎でかした、でかした」
と頭をなでて、村のショに
「村のショ、安心しなせえ。こんだ、人年貢(ひとねんぐ)はいらねえ。娘はやらんでいい」
とようんだんが、村中で大喜びしたと。村のショは
「坊さんのお陰で、村が救われた。どうかこの先、いつまでもここにいてくだせえ」
とようたと。
いきがさけた。
……読み比べてみたい昔話
共に<おろかな動物>をテーマとしたお話です。