新潟県長岡市(旧三島郡越路町)の高橋ハナさんの昔話。昔話独特の語り調子と、いきいきしたリズムが分かるとお話が語り始めます。ぜひCDでむかしばなしを聞いてみてください。
松の木の伊勢参り(樹木の化身)
あったてんがの。
あるどき、若い男と女がお伊勢参りして、宿屋に泊まったてんがの。
宿のショが
「どこの国のどこの村のもんだ」
とようと、松太郎に松子と宿帳に付けたてんがの。
宿屋の亭主が
「ざいごうのもんにしては、上品すぎる、ことに女はきれいな人だ。どうも村人と変わったような人たちだ」
と思っていたてんがの。
帰るとき勘定になって
「銭もっていねえで、払わんねえのだ。二人して泊まって、道中で銭使い過ぎて、宿屋の勘定ができない。申し訳ない」
とようているてんがの。亭主は
「うそをようような人でもなさそうだが、気の毒に」
と思うて、
「宿賃の勘定は来年の村のショが帰る時でいい。その時、払ってくれ。これから村へ帰るたって銭もいることだし、この金も貸してやる。この金も来年返してもらえばいい」
とようて金貸してくれたと。
二人は喜んで帰っていったと。
次の年になって、村のショが大勢で伊勢参りにきて、その宿屋に泊まったてんがの。
亭主がようには
「おめえさん方の村から、去年上品な男と女が二人してここへ泊まって、宿銭と旅費を貸しておいたが、おめえさん方持ってきてくれたか。その人の名は松太郎と松子という名だ」
村のショはそれを聞いて
「いや、おら村にはそんげの人知らん。おら村には、松太郎、松子とようような人はいない」
とようたと。亭主は
「そうかあ。あの人は人をたらかす(だます)ような人でないがなあ」
村のショは帰ってきて、いろいろ人に聞いてみるがやっぱり分からねえ。
ほうしたれば、一人が、
「ほうか。それで分かった。村のお宮さんの二本松の上に、お伊勢様の札のようなものがぶら下がっているとようんだんが、行って見たれば、やっぱりお伊勢様の御札がぶら下がっていた」
とようと、村のショは、
「ほうせば、お宮の松が人間に姿を変えて伊勢参りしたのだ。宿銭と旅費を送ってやらんばならん」
とようて、その宿屋へ金を届けたと。
いきがさけた。
……読み比べてみたい昔話
共に<樹木の化身>をテーマとしたお話です。