新潟県長岡市(旧三島郡越路町)の高橋ハナさんの昔話。昔話独特の語り調子と、いきいきしたリズムが分かるとお話が語り始めます。ぜひCDでむかしばなしを聞いてみてください。
ねこまた(化け物退治)
あったてんがの。
侍が峠を越えて、産月(うみづき)の奥さんを実家に連れて行く途中だったと。
峠の真ん中ほどで、奥さんが、みしけ(産気)がして来たと。
侍が困っていたら、年寄りのばさがきて、
「下の村に取り上げばさがいるすけ、おれが奥さんをみているすけ、産婆さん頼んでこい」
とようたと。
侍が下の村に産婆を頼みにいったと。ばさが
「おれが産婆だ」
とようて出て来たんだんが、侍が連れて来たと。
峠の真ん中に来てみたら、奥さんがいないし、一緒に来たばさもいないし、どうしたらよいかわからんでいると。
木の上でネコマタが、奥さんの頭の毛をたがいて、ぶら下げたと。ほうして
「これ欲しくないか。これ欲しくないか」
とようたと。
侍はどうしることもできねんだんが、下の村にとんできて、産婆の家のショに、話したと。
家のかっかが、
「おらどこのばさは、もと取り上げばさだったが、三年程前から、腰が痛いとようて、いっこう出ないで寝ていて、寝床へ運び膳している」
とようたと。
またまたかっかが
「このごろ、なんだかおかしだと思うていたとこだ。寝ていてもまんまもいっぱい食うし、魚を焼いても、骨まできれいに食うし、そのばさが猫だかも知らん」
とようと、侍がかっかに、
「ばさの寝床にいって、『いい医者がきた』とばさを起こしてくれ。猫だければ、窓から逃げるすけ、おれが窓の外で刀をもっている」
とようたと。
ほうしてかっかがばさのどこへ行って、
「ばさ、ばさいい医者が来たすけ、見てもろうねか」
とようたと。ばさは
「いいや、医者になんか見てもらんでいい」
そうようたと。かっかが
「そう言わんで見てもらわっしゃい」
と布団をまくったと。
ほうしたら、猫になって寝床の窓に飛びついたと。
外で待っていた侍が猫の頭を切り落としたと。
寝床を見たら、隅に産まれたばっかの赤っ子があったと。
周りに侍の奥さんを食うた骨だけあったと。
他にもいろいろの骨がいっぱいあったと。
産婆のばさを食って三年もばさに化けて寝床に寝ていただと。
いきがさけた。
……読み比べてみたい昔話
共に<化け物退治>をテーマとしたお話です。