新潟県長岡市(旧三島郡越路町)の高橋ハナさんの昔話。昔話独特の語り調子と、いきいきしたリズムが分かるとお話が語り始めます。ぜひCDでむかしばなしを聞いてみてください。
牛の子八匹(知恵者話)
あったてんがの。
あるどこへ、とんちのいい男があったてんがの。
とんちがいいてがで、いばっていたてんがの。
ある道中で知り合いの男に会うたてんが、
「よし、この男たらかして(だまして)やれ」
と思うて、
「いや、いい天気だの。なに変わったことはねえかい」
とようたと。
知り合いの男は、
「別に変わったこともねえが、おら、こねさ(この間)、変わったもんを見た。タヌキの頭にハチが巣を作っているのを見た」
ようと、
「そんげな冗談(じょうだん)ようて、いくらまぬけのタヌキだって、ハチが頭に巣をつくるなんて、じっとしていねえこてや」
ととんちの男がようたと。
「いや、ほんとだ」
と知り合いの男も負けなかったと。
とんちの男は
「おめえはいつも冗談ばっかようているがらねか」
とようろも、知り合いの男も
「いいや、嘘(うそ)じゃねえ」
と負けなかったと。
ほうして、二人で賭(かけ)することになったと。
とんちの男が
「ほんとうに、タヌキの頭にハチが巣つくっているがらけや、牛の子八匹やろう」
ようたと。
知り合いの男も
「よし、おれが嘘だったら、馬の子八匹やる」
とようたと。
二人して田んぼに行って、知り合いの男が
「ほら、あそこにタヌキの頭にハチが巣作っているでねえか」
指差すとこを見たてんがの。
田んぼの中に棒が立っていて、その頭にハチが巣をつくっていたてんがの。
知り合いの男は
「その田んぼの杭は、田をつらぬいたもんだすけ、タヌキだ」
とようたてんがの。
とんちの男は、仕方なく
「明日、牛の子八匹持ってくるすけ、待ってくれ」
とようて、ショボショボして帰ったと。
タヌキの男は、いい気になって、家に帰ったと。
ほうして、
「かか、かか、酒買うてこい。魚買うてこい。赤飯炊け。近所のショもよばってこい。明日は、牛の子八匹もうかるすけ、心配しるな」
ドンちゃん騒ぎしていたてんがの。
とんちの男は、賭に負けて、あんまり心配して、熱を出して、大騒ぎしているどこへ、友達がきて、事情を聞いたと。
「よし、わかった。そんげのがんはおらに任せろ。心配しんな」
とようたてんがの。
つぐの日、牛の子を今か今かと待っている男のとこへ、やせこけた牛一匹連れてきたてんがの。
賭に勝った男は、
「これはなんだ。どうようがら。たった一匹で」
と怒ったと。
とんちの男は
「後ろへ回ってみてくれ。たった一匹だが、八匹だ」
とようたと。
ほうして、牛の子の後ろに回って見たれば、牛の尻っぽになわを付け、その先に、ハチをしばっておいたてんがの。
ハチを引いているんだんが、ハチヒキだと。
いきがさけた。
……読み比べてみたい昔話
共に<知恵者話>をテーマとしたお話です。