新潟県長岡市(旧三島郡越路町)の高橋ハナさんの昔話。昔話独特の語り調子と、いきいきしたリズムが分かるとお話が語り始めます。ぜひCDでむかしばなしを聞いてみてください。
松の山鏡(知恵者話)
あったてんがの。
あるろこへ父親とせがれがあったてんがの。
せがれは親孝行で父親を大事にしていたてんがの。
ほうしたれば、父親が病気で死んでしもうたてんがの。
せがれは毎日悲しんでいたてんがの。
ある時、魚釣りに行ったてんがの。
見れば、光ったようのもんが父親の顔に見えるてんがの。
そのせがれは、父親の顔そっくりで、釣り上げたのは、鏡だてんがの。
「おらが、毎日、父親のこと思うているんだんが、ここへ来て暮らしたがだな」
と思って、喜んで家に持ってきて、大事にしてごはんあげたり、お参りしたりしていたてんがの。
せがれは、独り者だんだんが、嫁を世話しる人があって、嫁をもらったと。
その鏡は押し入れの奥へしもうておいたてんがの。
嫁がきて掃除したれば、押し入れの奥から鏡が出てきたと。
その鏡見ると、きれいな女が映っているてんがの。
ほうして、嫁は、
「まあ、おらちの人は、こんげにいい女がいるてがんに、またおらもろうて。こんげのことがなにあろうば」
とこってい(とても)ごうやいて(怒って)いたてんがの。
そこへ亭主が帰ってきたんだんが、
「おまえ、どういうがだ、こんげのいい女隠しておいて」
と怒ったと。亭主は、
「なにようている。女なんか何隠しておこうばや」
とけんかになったと。
「これみらっしゃい」
と鏡だしたと。
「なにこれが女であろうばや。死んだ父親でねえか」
「これは女だ」
とけんかしたと。
そこへ隣の亭主がきて、訳を聞いたと。
鏡を見て
「これは、頭のあめた男だがや」
とようたと。
そこへ隣のかかがきて
「これはにくげな女だねか」
とようたと。
四人して論しているとこへ、お寺の和尚さんがきて、
「おまえたち何けんかしているがら。これは鏡とようもんだ」
とようて聞かせたてんがの。
いきがさけた。
……読み比べてみたい昔話
共に<知恵者話>をテーマとしたお話です。