新潟県長岡市(旧三島郡越路町)の高橋ハナさんの昔話。昔話独特の語り調子と、いきいきしたリズムが分かるとお話が語り始めます。ぜひCDでむかしばなしを聞いてみてください。
おっけけ(愚か者話)
あったてんがの。
山方の村にかっかと馬鹿のあにがいたと。かっかが
「この子は馬鹿のあにだろも、嫁をもらいたいなあ」
と思うてさがしていたと。
里前にいい娘がいて、その娘が気に入って嫁をもらったと。
正月になって里前ショがあにをよんだと。かかが
「あに、あに、里の家に行ったら気をつけれや。まんま食うたら、その後でお湯を飲むんだぞ。お湯を飲む時、コウコ(たくあん)を入れて、かんもして飲めや」
とようたと。
ほうしてあにが里へ呼ばれて行ったと。
里のショが
「山方のあんにゃ、ようきてくらした。風呂がわいているすけ、入ってくらっしゃい」
とようたと。
あにが風呂に入ると、その家のかっかに
「コウコ一本持ってきてくらっしゃい」
とようたと。
「コウコなんて何しるんだろう」
と里のかっかが思うて持っていったと。
その風呂の湯をがぶりと飲んで、コウコをガリガリかじって、コウコ一本んな食うたと。
あにが
「風呂があきました」
とようと、家のショが
「こたつへあたってくらっしゃい」
とようたと。
あんにゃは、家ではこたつなんかなくて、火ばっかたいていたんだんが、こたつへ入ることを知らんと。
どうしてあたるもんだろうと思っていたら、そこへ猫がきて、布団を頭でふったってゾロゾロとこたつへ入って向こうの方にチョコンと出たと。
それを見て、あには
「こたつてや、こうやって入るもんだな」
と思って、布団をまくって頭から入って、向こう側に出て
「こたつがあきました」
とようたら、里のショが
「馬鹿だと聞いたが、ほんとの馬鹿だろうか」
と思うていたと。
おはぎでもしようかと里のかっかがおはぎこしらえていたと。
里にはちんこい子どもがいて、
「おはぎ、くれくれ」
とようていたと。かっかが
「馬鹿、こらあ、おっけけだぞ」
とようて、子どもにくれんかったと。
それを聞いていたあには
「おらにおっけけなんか、食わせるんだな」
と思って、障子(しょうじ)の穴からのぞいてみたら、かっかがおはぎをにぎっていたと。
「おらに食わせるつもりだな。困ったな」
と思っているうちに、おはぎをお膳にのせて、出したと。あには
「おら、おっけけなんかいらん」
とようと、
「あれは子どもだましにようたがら」
とようても、あには
「おら家にいぐ」
とようてきかんと。
「おまえ、山のかっかのどこへみやげに持っていってくらっしゃい」
とようて、おはぎをツットコに入れてやったと。
あには「おっけけなんか持っていがん」
とようたろも、竹の先にいつけてやったら、持っていったと。
竹にいつけて持って行くうちにだんだん下がってきて、あにの肩のどこへきてしもうたと。
あにはおはぎを踏みつぶしたら、あんこが破れてまんまが見えたと。
あには
「おっけけが白い牙(きば)をむき出して、おれをにらんでいる」
とようて、どんどん逃げて家にきたと。
家にきて
「かっかあ、来たれ。おら、かかの家になんかいがん」
とようてフウフウようていたと。かっかが
「どうしたがら」
と聞くと、
「かかの家ではおらにおっけけを食わせようとした」
とようたと。かっかが
「おっけけてや、なんだや」
と聞くと、
「白い歯をむき出している」
とようだんが、かっかが行ってみると、おはぎが踏んづぶされてあったと。
いきがさけた。
……読み比べてみたい昔話
共に<愚か者話>をテーマとしたお話です。