新潟県長岡市(旧三島郡越路町)の高橋ハナさんの昔話。昔話独特の語り調子と、いきいきしたリズムが分かるとお話が語り始めます。ぜひCDでむかしばなしを聞いてみてください。
鼻かぎ権兵衛(知恵者話)
あったてんがの。
若い権兵衛という男があったと。
権兵衛は舟に乗って、遠いとこへ出かけることになったと。
権兵衛がかっかにようたてんがの。
「かっか、かっか。おれが舟に乗って二十日たったら、この家の小屋に火を付けて燃やしてくれや」
かっかが
「おまえ、そんげにむちゃなことようて」
とようと、権兵衛は
「いや、おれに考えがあるすけ、どうでもそうしてくれ」
とようんだんが、かっかも
「仕方がねえ。承知した」
とようたと。
権兵衛は舟に乗って出て、二十日もめると、舟の上に上がって真剣でにおいをかいでいると。
仲間のもんが、
「おまえ、何においをかいでいるがら」
と聞くと、
「おれの家の小屋が燃えているにおいがする」
とようたと。仲間が
「馬鹿ような。舟に乗って二十日もめるがんに、こんげの遠いとこで、おまえの家の小屋の火事のにおいがしるわけがねえ」
とようたと。権兵衛は
「いや、確かに、おらの家の小屋の火事のにおいがしている。くせい、くせい」
とようたと。
ほうして、用事を終やして家に帰ったら、権兵衛の家の小屋が燃えていたったと。
仲間のもんが、
「あのくせえ、くせえとようた日に燃えたがら。権兵衛の鼻はごうぎたいしたもんだ」
とたまげたと。
それを聞いていた人も
「ごうぎな鼻かぎ権兵衛だ」
とたまげていたてんがの。
それを聞いたある男が
「そんげん遠いどこから、においをかぐいい鼻だなんてうそだ。おれが一つ試してやろう」
と自分のいろり端に炭を一俵埋めていたと。
また別な男がそれを見て
「どうしたがら。こんげのどこに炭を埋めて」
と聞いたと。
「いや、鼻かぎ権兵衛の鼻を試すのだ」
とようたと。
別の男が権兵衛に
「鼻かぎ権兵衛だとようているおまえの鼻を試すとようて、いろり端に炭を一俵埋めている男がいる。おまえから見てもろうてがら」
とおせたと。
ほうしているうちに、炭を埋めた男がきて、
「炭が一俵どっかにいったすけ、おまえのいい鼻でめっけてくれ」
とようたと。
権兵衛は、鼻をピクンピクンして、においをかいでいたけが、
「そらあ、おめえの家のいろり端に埋めてあらあ。掘ってみれや」
とようたと。
その男は、これを聞いて
「こらあ、本物だ。たいしたもんだ」
とようて、たまげていたと。
鼻かぎ権兵衛はますます評判になったと。
こんだ殿様が病気になって、医者にかかっても治らんと。
殿様から権兵衛のところへ使いがきて
「殿様の病気の元を、おまえのいい鼻でかいでみてくれ。権兵衛頼む」
とようたんだんが、権兵衛も
「こらあ、おおごとら」
と困ってしもうたと。
殿様のどこへ出かけて行く途中、でっこい杉の木の根っこに腰かけていたてんがの。
バサンバサンとでっかい音がして、その木の天上にてんぐが話しているてんがの。
「おい、この木の下にいる人間をとって食うてしもうか」
と一人がようと、
「いや、この男は殿様の病気の元を探りに行くがらすけ、食わん方がいい。あんなやつに病気が分かるはずがねえ。あの病気は、つぼどこ(坪庭)の手洗い石の下に古いガマがいるが、それを掘り出して、逃がしてやれば、治るがら」
とようて、どっかにいってしもうたと。
それを聞いていた権兵衛は
「これはいいことを聞いた」
と山を下って殿様のどこへいったと。
きれいな部屋に通されて、権兵衛はそこらのにおいをかいでいたけや、
「つぼどこの手洗い石の下に古いガマがいるすけ、それを堀り出せや、殿様の病気は治る」
とようたと。
そこを掘ったら殿様の病気はほんとに治ったと。
殿様は喜んで権兵衛はいっぺえ金をもろうたと。
いきがさけた。
……読み比べてみたい昔話
共に<知恵者話>をテーマとしたお話です。