新潟県長岡市(旧三島郡越路町)の高橋ハナさんの昔話。昔話独特の語り調子と、いきいきしたリズムが分かるとお話が語り始めます。ぜひCDでむかしばなしを聞いてみてください。
てんぐの隠れみの(誇張話)
あったてんがの。
あるろこへなまけ者の男がいたと。
そこのうちのばさが
「おらあには仕事もしねえで遊んでばっかいるのめしこき(なまけもの)でこまってしもう」
とようていると。
山の松の木の上にてんぐの子がいるとよう話だったと。
のめしこきのあには、この話を聞いて
「おれがてんぐの隠れみのを取ってやろう」
竹の筒を持って松の木のどこへ行ったと。
木の下で遠くの方を向け、竹筒をのぞいて、口からでまかせに
「江戸が見える。江戸は今花見で人がいっぺえいる。京都が見える。今お祭りで、にぎやかだ。大阪が見える。おもしいな」
とようたと。
それを見ていたてんぐの子が、
「あれ、おもしろげなのが欲しいな」
とようたら、あにはのうかた(いっそう)おもしろげに、口からでまかせをようていたと。
そうしると、てんぐの子が下へ降りてきて、あにのそばへきたと。
てんぐの子が
「あに、おれにそれを貸してくれねえか」
とようと、あには
「馬鹿ような。おれの大事な宝物おまえになんか貸せらんね」
とようと、てんぐの子は
「ちょっとでいいすけ貸してくれ」
と頼んだと。
「いや、だめだ」
とあにがようと、てんぐの子は、のうかた欲しくなって
「おれの大事な宝物の隠れみのとかえてくれ」
と頼んだと。あには
「だけや、仕方がねえ。かえてやるすけ持ってこい」
とようたと。
てんぐの子は喜んで隠れみのを持って来て竹筒とかえっこしたと。
あには隠れみのを着てどっかへいってしもうたと。
てんぐの子はその竹筒をのぞいてみたろも、なんでもめえなかったと。
「こらあだまされたな」
とくやしがっていたと。
あには、その隠れみのを着て酒が飲みてえんだんが、酒屋へ行ってガブガブ飲んでいたと。
酒屋のショは
「酒がどっかへいくぞ」
と不思議に思っていたと。
あにはこんだ菓子屋に行って菓子を取って食ったと。
うんめい菓子がチョコチョコどっかへ行くんだんが、菓子屋がたまげていたと。
こんだ人のいっぺえいるどこへきて、耳引っ張ったり、鼻つかんだり、背中をたたいたり、いろいろいたずらして、人の騒ぐがん見て、おもしろがっていたと。
あにも疲れて、家にきて物置にみのを置いて寝たと。
その間にばさがその物置を片付けると、きったなげのみのがあるんだんが、
「こんげのもん、どっから出たろう」
ようて、燃やしてしもうたと。
あにが目覚ましたら、みのがなかったと。
あにがばさに
「ばさ、ばさおれがここに置いたみの知らんかい」
と聞いたら、ばさは
「あんげのきったねもん燃やしてしもうた」
とようたと。
「あら、おらの大事なみのだてがんに、その燃やしたあく(灰)どうしたい」
と聞いたと。ばさは
「あくはここにあらあ」
とようたと。
あにはそのあくからだに塗って姿消して出かけたと。
酒屋へ行ったり、菓子屋に行ったりしているうちに、しょんべんが出たくなったと。
しょんべんしたら、ちょんぼこのあくが落ちて、ちょんぼこの先ばっかめえたと。
そのままそこら歩んでいたら、人が
「ちょんぼこがきた」
とようたと。
こんだ水が飲みたくなって、水飲んだら、口の方のあくが落ちて口がめえると。
ほうしたら、人が
「あこへちょんぼと口がくる」
とようて騒ぐんだんが、あにはどんどん逃げているうちに川へ落ったと。
からだのあくが取れて元のあにになったと。
いきがきれた。
……読み比べてみたい昔話
共に<誇張話>をテーマとしたお話です。