新潟県長岡市(旧三島郡越路町)の高橋ハナさんの昔話。昔話独特の語り調子と、いきいきしたリズムが分かるとお話が語り始めます。ぜひCDでむかしばなしを聞いてみてください。
太郎と次郎(愚か者話)
あったてんがの。
太郎と次郎がいたてんがの。
かっかが
「太郎、今日は死んだつぁつぁ(父)の日だすけ、お寺様呼んでお経をあげてもらうすけ、おまえお寺にいってこい」
と頼んだと。太郎は
「お寺様てやどこへいるんだ」
とようたと。かっかは、
「お寺様は、黒い着物を着て高いどこにいらっしゃる」
とおせた(教えた)と。
太郎がお寺に行くと、黒いカラスが木の上にいたと。
太郎はこれが和尚様らと思うて
「和尚様、今日はつぁつぁの日だすけ、お経読みに来てくらっしゃい」
と頼んだと。
そうしたら、カラスがガアガアと鳴いたと。
帰ってきてから、太郎は、
「かっかあ、お寺様にいって来たれ」
とようと、かっかが、
「おおそうかや、お寺様はどういわしゃったや」
と聞くと、太郎は
「お寺様は、高い木の上からガアガアと啼いて、たっていがした」
とようたと。かっかは
「この馬鹿、それはカラスとようもんだ。次郎、こんだおまえがいってこい」
とようたと。次郎が
「お寺様てや、どこへいらしゃる」
と聞いたと。かっかは今度
「お寺様てや、黒い着物着て下へいらっしゃる」
とようたと。
次郎がとんでいったら、黒い牛がいたと。
次郎は、これが和尚様だと思って
「和尚様、今日はつぁつぁの日だすけ、お経読みに来てくらっしゃい」
とようたと。
そうしたら牛がモーと鳴いたと。
うちに来て次郎は
「かっかあ、行って来たれ」
とようと、かっかは
「お寺様はどういわしゃった」
とようたと。次郎は
「お寺様は、モーといわした」
とようたと。かっかは、
「馬鹿、それは牛とようもんだ。今度おれがいってくるすけ、ねら、家に入れ、太郎はまんまたけ、次郎はおつけ煮れ」
そうようて、かっかがお寺に行ったと。
太郎と次郎は二人して火たいていたと。
そのうちにまんまも煮え、おつけも煮えたと。
まんまは黒くなり、汁はなくなっていたと。
かっかは、
「まあ、馬鹿ども、おおごとしたこてや。お寺様が来ても食ってもらうことができねえ。しかたがねえ。甘酒でもわかして飲もう。おれが天井から甘酒おろすすけ、ねら、けつ(尻)押さえろ」
そうようて、二階に上がって甘酒がめをおろすと。
かっかは
「ねら、けつしっかり押さえろ」
とようたと。
太郎と次郎はてめえのけつしっかりおさえたと。かっかは
「ねら、下ろすぞ、けつしっかり押さえたかや」
とまたようたと。太郎と次郎が
「ああ、けつしっかり押さえている」
とようたと。
かつかが、甘酒がめを放したら、ストーンと落って、かめがぶっこれた(こわれた)と。
ほうして甘酒がそっこら中へ流れたと。かっかは
「馬鹿ども、あんげにしっかり押さえていれとようたがんに、なに押さえていた」
とようたと。太郎と次郎が
「こんげにしっかり、自分のけつ押さえていたてがんに」
とようたと。かっかは
「へえ、お寺様がこらしゃるがんに何でもねえ。仕方がねえ、風呂でもわかして入ってもらおうか」
とようて、風呂わかしていると、お寺様がこらしたと。
かっかが
「なんでもねえすけ、風呂でも入ってくらっしゃい」
とようて、お寺様は、風呂に入ったと。
かっかが
「お寺様、風呂はなじだい」
と聞いたら、和尚様は
「ちっとぬるいすけ、火たいてくれ」
とようたと。
太郎と次郎が火をたこうとしたども、たきもんがねえ。
かっかに聞いたら、かっかが
「そこらにあるものたけ」
とようたと。
見たら、お寺様の着物も帯もふんどしもあったんだすけ、いんな(みんな)もやしてしもうたと。
お寺様は風呂から上がってみたろも、着物もふんどしもみんなないんだんが、ようて(湯てぬぐい)を当てて行ってしもうたと。
いきがさけた。
……読み比べてみたい昔話
共に<愚か者話>をテーマとしたお話です。