新潟県長岡市(旧三島郡越路町)の高橋ハナさんの昔話。昔話独特の語り調子と、いきいきしたリズムが分かるとお話が語り始めます。ぜひCDでむかしばなしを聞いてみてください。
どっこいしょ(愚か者話)
あったてんがの。
山方(やまがた)の村にかっかと馬鹿なあにがあったと。
あにが嫁をもらわんけりゃならんと、かっかが探してやっと里前(さとまえ)の村から嫁をもろうたと。
あにが嫁のうちにイチゲンによばれて行くことになったと。
嫁はあにの馬鹿が出ねよに、いろいろ聞かせると。
「あに、あに、おらうちの床柱に節穴があるすけに、『この柱はいい柱だろも、節穴があるのが悪い』といわっしゃい」
あには
「おう、わかった」
とようたと。
「あに、あに、おらうちでまんま食う時、おれが足に綱付けて置いて、おれが下で引っ張るすけ、その時、『さようでございます』とようてくらっしゃい」
とようたと。あには
「おう、おう、わかった」
とようたと。
あにはかかのうちによばれていったと。
座敷に通されて床柱を見たら、節穴があったんだんが、
「こらあ、いい柱だろも、節穴があるがんが難だのし」
とようたら、そこの家のショウがたまげて、
「こらあ、馬鹿なあにどこじゃねえ。こんげのことようがんに」
とたまげていらしたと。ほうして
「おらうちにいい馬がいるすけ、見てくれや」
とようて厩(うまや)へ連れていったと。あには馬に尻の穴を見て
「いい馬だろも、しっぺたに穴があるのが難だのし」
とようたと。家のショウは
「このあには、馬の尻ごを見てこんげのことようが、こらあ、ほんとの馬鹿らなあ」
とようたと。
こんだまんま食うことになって、ごっつぉが並んだと。
あねは、あにの足に綱付けて、この綱の端もって縁の下へ行っていたと。
うちのショウが、いろいろ質問しると。あねが綱引っ張ると、あには
「さようでございます。さようでございます」
とあいさつしるんだんが、うちのショが
「こらあ、馬鹿でねえぞ」
と思うていたと。
そのうちにあねがしょんべんがでたなったと。
「困ったなあ」
と思ったろも、たれこちになって、綱を放してしょんべんしていたと。
その間に猫が縁の下に入ってきて、その綱にじゃれてクツンクツンと引っ張ると。
あにはその度に
「さようでございます。さようでございます」
とようたんだんが、うちのショウがたまげて、
「こらあ、ほんとの馬鹿だ」
とあきれていたと。
そこの家のショウがだんごしてくれたと。あには
「こらあ、うめいもんだ。何とようもんだ」
と聞いたと。家のショウは
「こらあ、だんごとようもんだ」
とおせてくれたと。あにはうちへの帰りに忘れんように
「だんご、だんご」
とようてきたと。
途中で川をまたぐとき
「どっこいしょ」
とようたと。
ほうしたらだんご忘れて、
「どっこいしょ、どっこいしょ」
とようてきたと。
うちへきたら、かかに
「里へ行ったら、どっこいしょとよううまいもん食うてきた。おめえもどっこいしょ作ってくれや」
とたのんだと。かかは
「どっこいしょなんておら知らない」
とようと、
「どっこいしょを知らんか、この馬鹿」
とようてごうぎにかかをはたいたと。
ほうしたら、かかが
「あいたた、だんごのようなコブができた」
とようたと。あにが
「そうだ。そのだんごのことだ」
とようたと。
いきがさけた。
……読み比べてみたい昔話
共に<愚か者話>をテーマとしたお話です。