新潟県の名人級の語り部を選定し収録した越後の昔話CD。語りの達人と言われる古老が地の方言で語る貴重で楽しい新潟県民話語りの醍醐味をご堪能ください。民話ファンや昔話の語り部を目ざす方は是非聞いてみたい昔話CDです。

馬鹿あに

高橋ハナむかしがたり

新潟県長岡市(旧三島郡越路町)の高橋ハナさんの昔話。昔話独特の語り調子と、いきいきしたリズムが分かるとお話が語り始めます。ぜひCDでむかしばなしを聞いてみてください。

馬鹿あに(愚か者話)

あったてんがの。

あるとこへかっかとあにがあったてんがの。

あには馬鹿で、毎日そこらフラフラと遊んでばっかいると。

ある時、ワアワアと泣いて帰ってきたと。かっかが

「おめい、なにしてきたや」

と聞くと、あにが

「よその家で大勢してワアワアなっているんだんが、あんまりおかしくっておれが笑ったれば、『この馬鹿ずべ、ここの大事な人が死んだというがんに、笑うやつがあるか』頭たたかれた」

とようと、かっかが、

「この馬鹿め、それやそうだねか。そんげのどきは、『おれも線香一本上げさせてもらおうか』とようもんだ」

とようたと。

また遊びにいったれば、嫁取りがあって、人が大勢あつまっているてんがの。あにが

「おれも線香一本上げさせてもらおうか」

とようたれば、

「この馬鹿ずべ。人がめでたい嫁取りとようのに、線香だなんて、縁起の悪い」

とようて、またあには頭たたかれて、家に泣いてきたと。かっかが

「おめえ、なにしてきたや」

とようたと。あには

「人が大勢いたんだんが、『おれも線香あげさせてくれ』とようたれば、『めでたい嫁取りに何いうか』とまた頭たたかれた」

とようたと。かっかは

「この馬鹿めが。そうよう時には、『おれも歌の一つも歌いましょうか』とようもんだ」

とようたと。

また遊びにいったれば、人が大勢いて火事場で大騒ぎしているてんがの。

ほうしるんだんが、あにが

「おれも歌の一つでも歌おうかの」

とようたと。ほうしたら、そばの人が、

「この馬鹿ずべ。人が火事で大騒ぎしているてがんに、歌ずらねえ」

とまた頭たたかれて、家に泣いてきたと。かっかが

「おめえ、またなにしてきたや」

と聞くんだんが、わけを話しると、かっかは

「この馬鹿めが。そっげの時は、『おれも水のひとつもかけましょうか』とようもんだ」

とおせてくれたと。

また遊びにいったれば、ある家でとっつぁとかっかがもちをつくとて、火のたきようが悪いのいいのとけんかをしていたと。

ほうしるんだんが、あには

「おれも水の一つもかけようか」

と手桶の水をざぶんとかけたと。ほうしたら

「この馬鹿ずべ」

とようて、また頭たたかれて、家に泣いて来たと。かっかが

「おめえ、なにしてきたや」

と聞いたれば、あには

「とっつぁとかっかがけんかしているどこへ、手桶の水をかけた」

とようたと。かっかが

「この馬鹿が。そういう時は、『どっちが悪い。そのけんかおれにくれ』とようもんだ」

とようたと。

また遊びに行ったれば、こんだ犬がけんかしていたと。あには

「そのけんかどっちが悪い。おれにくれ」

とようて中に入ったと。犬は怒って両方の手にくいつき、あには血だらけになって帰ってきたと。かっかが

「おめえ、また何してきたや」

と聞いたと。あには

「おら、犬の喧嘩の中へ入ってくいつかれてしもうた」

とようたと。かっかはあきれて

「この馬鹿、もう外へでねえで、家にいれ」

とようたと。

いきがさけた。

おはなし

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