新潟県長岡市(旧三島郡越路町)の高橋ハナさんの昔話。昔話独特の語り調子と、いきいきしたリズムが分かるとお話が語り始めます。ぜひCDでむかしばなしを聞いてみてください。
一本歯のげた(宝の呪物)
あったてんがの。
あるどこへ母親とせがれがあったてんがの。
家は貧乏だろもそのせがれはいい子で、真剣に働いて暮らしていたてんがの。
あるとき、母親が病気になって、医者にかかっているんだんが、銭がかかってどうしょうもねえてんがんの。
ほうしるんだんが、銭いっぺい持っている親類から、銭借りたてんがの。
薬買ってきて飲ませるろも、病気は治らんで、銭は絶えてしもうたてんがの。
ほうしるんだんが、また銭借りにいったてんがの。
親類の親父(おやじ)は
「おめえ、借りた銭も返さんで、なにようているや。へえ、貸せらんねえ」
とようて、いっくらねごうても、貸せねえてんがの。
しかたがねえんだんが、そのまま帰ってきたてんがの。
帰りしなに、お宮の所に腰かけて
「はて、まあ、どうしたもんだ。薬もかわんねえし、養生(ようじょう)もさせらんねえし、おおごとらねえか」
と思案していたと。
そのうちに、疲れて、ウトウトと眠ったれば、夢の中で、年寄りのじさが出てきて、
「おめえ、そんげになに思案しているのだ」
ようたんだんが、せがれは、
「実は、こういうわけだ」
と話したと。
ほうしると、じさは
「ほうせば、おめえにこの一本歯のげたをくれる。このげたを履いて転べば、小判が出てくる。ただ、履いて転ぶたびに自分の背が低くなるすけ、いりようのときだけにして、やたらに履くな」
そういわしたてんがの。
ほうして、目が覚めてみたれば、そこに一本歯のげたがあったてんがの。
一本歯だんだんが、そんま転んでしもうた。
ほうしると、小判が一枚でたてんがの。せがれは
「こらありがたい。いいあんばいだ。神様が授けてくんなすった」
と喜んだてんがの。
ほうして、金借りた親父のどこへ行って、金なし(返金)にいって、一本歯のげたのことを話して聞かせたと。親父は
「ほうか。おまえに今まで貸した金はみんなくれるすけ、そのげたおれによこせ」
とようたと。
「そればっかりは勘弁(かんべん)してくれ」
とせがれはようろも、無理にそのげた取り上げてしもうたてんがの。
親父は門を閉めて、庭に大ぶろしきを敷いて、そのげた履いて転ぶてんがの。
転ぶたびに小判が一枚ずつ出てくるてんがの。
転んじゃ起き、転んじゃ起きしているうちに、小判が山のようにたまったてんがの。
ほうしるども、自分はだんだん背が小さくなるてんがの。
ほうしてせがれが、
「あの親父はまあ、どうしたろうか」
と行ってみたれば、庭には小判が山のようにたまって、親父は、ばかちんこなって、虫よりちんこなって、隅にいたてんがの。
それでいきがきれた。
……読み比べてみたい昔話
共に<宝の呪物>をテーマとしたお話です。