新潟県長岡市(旧三島郡越路町)の高橋ハナさんの昔話。昔話独特の語り調子と、いきいきしたリズムが分かるとお話が語り始めます。ぜひCDでむかしばなしを聞いてみてください。
大蛇の目(異類女房)
あったてんがの。
あるろこにあにとおじがあったと。
あにが嫁をもらったと。
ほうしたら、おじは村のだんな様へ奉公に行ったと。
十三夜の日におじが家に遊びにきたと。
家では、十三夜だすけ、おはぎ作って食って、残りをお鉢に入れておいたと。
あにが
「今朝、おはぎしたねか。おじにも食わせれや」
とあね(嫁)にようたと。
あねは、おじに食わせたくねんだんが、
「おはぎは、へぇたえた(もうなくなった)とようたと。あには、
「あっげにいっぺいあったが、へぇてえたか」
とようたと。おじは
「おら、だんな様でいっぺえもらって食っているすけ、いらねえ」
とようて、帰ってしもうた。
ほうしると、あねが、
「おじに食わせんかったども、おはぎは、いっぺえあるがんだすけ、また食おう」
とようて、お鉢のふたを取って見たれば、今朝作ったおはぎが、んなかぶれて、毛がモクモクおえて(生えて)いたと。あには
「こら食わんねがんに、ぶちゃってこよう」
そう思って、家の池へ持っていって、ふたを開けようとしると、どうしてもふたがあかんと。
そのうち、自分も池の中に落ちてしもうたてや。
そこへどっかへ遊びにいっていたあにが、帰ってきたろもかかがいないてが、小さい赤っ子もいるてがんで、真剣にそこらさがすども、いないし、近所の人に聞いても
「おらどこに来ていない」
とようし、それでも、
「さっき、お鉢たがいて(持って)、裏の方にいったが」
とおせて(教えて)くれる人がいた。
そうようんだんが、裏の方に行って見たれば、池の中にお鉢が空(から)になって浮いているてんが。
ほうして、そばにげたが脱いであったと。あには
「こら、かかは、池に落ちたがだ」
と思うて、
「かかや、かかや」
と呼ばったてが、池の水が、ムクムクしてきて、かかが大蛇になって、でてきたと。
あには
「かか、かか、そんげの格好じゃ、おらおっかなくて、おまえに会わんねえすけ、元のからだになって来てくれや」
とようたと。
ほうしたら、あねは、元のからだになって、
「あにあに、おら、申し訳ねえ。今朝おはぎして、おじに食わせんかった。それをこんだ、おれが食おうとしたれば、モクモク毛がおえて食わんねんだんが、おまえに隠して、この池にぶちゃろうと思うて、来たろも、ふたがどうしても、開かんで、池の中に引きずり込まれて大蛇になってしもうた」
とようんだんが、
「そらまあ、おおごとら。んなには、小さい赤子があるがんに、乳くっるもんがねえ。どうせばいいやら」
とようたら、かかは、
「ほうせば、おらの蛇の目を抜いでやるすけ、蛇の目てや、高く売れるけ、それを売って赤子の乳を飲ませてくれ」
とようんだんが、蛇の目をひとつ抜いてもらったてが。
つぐの朝、あにが、町へ行って
「蛇の目、蛇の目」
と売りに歩いたてが、
「蛇の目一つだけや、いらねえ」
んなそうようて、だっれも買わんかったと。
あには、池の端に戻ってきて、
「かか、かか、蛇の目ひとつだけや、だれも買い手がねえ。二つだば、いいろもと人がようが」
とようと、かかは
「そうせば、仕方がねえ。もう一つの目をやる。ほうしると、おらはめくらになってしもうて、朝げだか、晩がただか分らねえすけ、これを売って銭がいっぺえあったら、これをお寺にあげて、釣鐘を買うて、朝晩ついてもろうように頼んでくれ」
とようんだんが、あには、
「そうしよう」
とようて、蛇の目二つ持って、町に売りにいったと。
ほうしたら、だんな様が喜んで高々と買うてくれたと。
あには喜んでお寺に上げて、釣鐘買うてもらったと。
あには、また池の端にとんでいって、かかを呼び出して礼をようたと。
かかも喜んで朝晩、釣鐘の音を聞いて、暮らしていたと。
いきがさけた。
……読み比べてみたい昔話
共に<異類女房>をテーマとしたお話です。