新潟県長岡市(旧三島郡越路町)の高橋ハナさんの昔話。昔話独特の語り調子と、いきいきしたリズムが分かるとお話が語り始めます。ぜひCDでむかしばなしを聞いてみてください。
キクの恩返し(異類女房)
あったてんがの。
ひとり者のあにがいて、そのあにはキクが大好きで、家のめぐらじゅうキクだらけだったと。
毎日毎日子どもを育てるようにキクを大事にしていたと。
ある日、あにが外から帰ってきたら、後ろから若い女がついてきたと。
そうしてあにに、
「道に迷ったのだが、一晩泊めてくらっしゃい」
と頼んだと。あには、
「おらろこは、何にもないが、よかったら、泊まらっしゃい」
とようて、泊めてもらったと。
ほうして、あにの面倒(めんどう)をよくみてくれたと。
ある日、あにに
「おまえさん、独り者だが、おれを嫁にもらってくれないろうか」
と頼んだと。あには、
「おらろこは、貧乏で何にもないが、それで良かったら、嫁になってくれ」
とようて、あにの嫁になったと。
気立てもいいし、一生懸命働くんだんが、あにも喜んでいると。
嫁になって長くなるろも、風呂に入ったのを見たことがねえんだんが、あにが
「おまえ、どこか悪いろこでもあるかや」
と聞いたと。嫁は
「おら、どこも悪くねえが、風呂が大嫌いだ」
とようたと。あにが
「そんげのことようて、さっざ(長い間)入らんでいれば、きったねねかや」
とようて、嫁が
「やだ、やだ」
とようのを、むりやり裸(はだか)にして、風呂へ入れたと。
ほうしたら、嫁がキャッとようて死んでしもうたと。
あにがたまげて、外へ飛んで出てみたら、キクが全部頭下げていたと。
あには
「おおごとした。あれほどやだやだようたがんに、キクが恩返しにきたのだな」
と思うたと。
いきがさけた。
……読み比べてみたい昔話
共に<異類女房>をテーマとしたお話です。