新潟県長岡市(旧三島郡越路町)の高橋ハナさんの昔話。昔話独特の語り調子と、いきいきしたリズムが分かるとお話が語り始めます。ぜひCDでむかしばなしを聞いてみてください。
オオカミのまゆ毛(宝の呪物)
あったてんがの。
あるどこへ、貧乏なじさがあったてんがの。
あんまり貧乏で、毎日のまんまが食わんねえがらてんがの。
ほうしるんだんが、村のだんな様の家に毎日行って、
「まんま食った鍋をおれに洗わせてくんなせえ」
と頼んで洗わせてもらっていたてんがの。
その鍋に水いれてかんもして(かきまぜて)、まんまのかわりに飲んでいたてんがの。
村のショは、じさのことを鍋洗いとようて、笑っていたてんがの。じさは
「あんまり貧乏だすけ人が笑うがら。いっそ、オオカミに食われて死んでしもう」
と思うて、ある晩、山へ行って、東の方むいて、
「オオカミ、オオカミ、おれをどうか食ってくれ」
とようたれば、オオカミがガサガサ山のやぶをこぎわけて、じさの近くまで来る音がしるども、いいて(いっこうに)姿を見せねてんがの。
じさは、西の方に、北の方に、南の方に向かってオオカミを呼ぶども、いいて姿を見せねてんがの。
夜明け方になって、もう一度、東の方に向かって、オオカミを呼んだてんがの。
こんだ、オオカミが本当に出てきて、
「じさじさ、おめえが真人間だすけ、おめえを食う事がならん。おめえは家に帰れ」
とようんだんが、じさが家に帰ろうとしたれば、そのオオカミがまゆ毛三本くれて、
「じさ、おめえにこれをやる。これを目に当ててみれば、人の本性が分かる。このまゆ毛があれば、一生食うに困らん」
とようたてんがの。
じさは喜んでオオカミのまゆ毛をもらってきたてんがの。
その朝、だんな様の家で田植えがあって、人がいっぺえ来ていたてんがの。
じさがオオカミのまゆ毛を目に当ててみれば、田植えで働いている人の心がわかって、いい人もいれば、悪い人もいるてんがの。
そこへだんな様が来らして、
「じさ、おまえ来たか」
とようたてんが。じさは、
「おら、ようべな、オオカミに食ってもろうと思うて、山へ行ったろも、オオカミは、おれを食わんで、おれにオオカミのまゆ毛をくれた。それで人を見ると、人の心が分かる。田植えをしている人を見れば、本当にそうだった」
とようたと。だんな様は、
「そのまゆ毛おれに貸して、見せてくれや」
とようろも、じさは
「こればっかしゃ。人に貸せらんねえし、やらんねえ」
とようたと。だんな様は
「そうか。おめえは、いい人間だすけ、どうか、おらどこで、働いてくれ」
と頼まれて、だんな様の家で働くようになったてんがの。
じさは心のいい人だんだんが、よく働いているうちに、だんな様は、仕事をみんなじさに任せるようになったてんがの。
ほうして、じさは一生幸せにくらしたと。
いきがさけた。
……読み比べてみたい昔話
共に<宝の呪物>をテーマとしたお話です。