新潟県長岡市(旧三島郡越路町)の高橋ハナさんの昔話。昔話独特の語り調子と、いきいきしたリズムが分かるとお話が語り始めます。ぜひCDでむかしばなしを聞いてみてください。
池の主(水神の国)
あったてんがの。
ある山にひとらもんの、貧乏なきこりがいたてんがの。
ある日暮れにヨボヨボのじさが、つえをついてきて、
「こんにゃ、一晩泊めてくんねか」
と頼んだてんがの。きこりは
「おらちは、こんげのあばらやだが、それでいいけりゃ、なじょもとまらっしゃい」
と泊めてやったてんがの。
ほうして米びつの中を逆さにして、ありったけの米炊いて、おかずもねえんだんが、生味噌をおかずにして食わしてやったてんがの。
じさに食わしてやったら、きこりの食うまんまが無くて、水飲んで寝たてんがの。
つぐの朝げ、帰るとき、じさが
「ようべは、有り難かった。おめえ、もし困った時は、この山の奥の池に来いや。ほうして池の端でポンポンポンと手を三っつはたけや。ほうせや、お祭りのようなごっつぉが出てくる。それを食うたら、おぜんとおわんはその池になしておけや」
そうようたかと思うたら、へえ(もう)じさの姿は見えなくなってしもうたてんがの。
きこりは
「こら不思議だ。夢ではないか」
と思うて、山の奥へ行ってみたれば、本当に池があるてんがの。
池の端でポンポンポンと手を三つはたいたてが、うんまげな(おいしそうな)、お祭りのごっつぉのおぜんが池の底からフーッと浮いて、こっちへ来るてんがの。
そのおぜんをうちへ持って来て、喜んで食うて、またおぜんとおわんは池になしたてんがの。
そのおぜんは、朱塗りのきれいなのだったてんがの。
きこりはそれからは仕事をしないで、池へ行っちゃ手をはたいてごっつぉを出して食っていたてんがの。
あるどき、きこりは
「こんげのいい朱塗りのおわんおらも欲しいもんだ。まあ、ひとつくらい、やらんでも分からんだろう」
そう思うておわん一つ戸棚の奥にしもうて、なさん(返さない)かったてんがの。
それから、池へ行ってまめのできるほど、いっくら手をはたいても、いっこう出てこねえてんがの。
「ほうせば、仕方がねえ。あのきれいなおわん売って金にしよう」
とおもうて家にきたてんがの。
ほうしたれば、その晩の
うちに戸棚から火が出て火事になって家が焼けてしもうて、のうかた(一層)貧乏になってしもうたと。
いきがさけた。
……読み比べてみたい昔話
共に<水神の国>をテーマとしたお話です。