新潟県長岡市(旧三島郡越路町)の高橋ハナさんの昔話。昔話独特の語り調子と、いきいきしたリズムが分かるとお話が語り始めます。ぜひCDでむかしばなしを聞いてみてください。
ふるやのもり(動物の闘争)
あったてんがの。
あるろこへじさとばさがあったてんがの。
ほうして、馬一匹飼っていたてんがの。
雨の降る、寒い晩に山のおおいん(狼)が、馬を食いにきて、家の中をうかがっていたと。
じさが
「ばさ、ばさ、こんにゃは、さぶいすけ、早、寝ろういや」
とようて、早寝したと。
寝床の中で、じさとばさが話していたと。じさが
「ばさ、ばさ、おめえはこのシャバで、なにがいっちおっかねえや」
とばさにようたと。ばさは
「そうだの。このシャバでおおいんがいっちおっかねえ」
とようたと。
おおいんは外で、それ聞いていて、喜んでいたと。
こんだばさが
「じさ、じさ、おめえはなにがいっちおっかねえや」
と聞いたと。じさは
「そうだの、おおいんなんかおっかんねえ。ふるやのもり(古家の漏り)がいっちおっかねえ」
そうようたと。
おおいんがそれ聞いていて、
「ふるやのもりてや、どっげのもんだろう。おらたより、まらおっかねえとようが、ふるやのもりがここへ来たら、おおごとらすけ、こんげのどこへいらんねえ」
と思うて逃げたと。
ちょうどその時、馬泥棒が、馬を盗みにきていて、おおいんが飛びでたんだんが、馬が逃げ出したと思うて、おおいんの上に乗って、しっかり耳押さえて逃げ出したと。
おおいんはたまげて、
「そら、ふるやのもりが上に乗った。はや落とさねけやおごっだいやあ(たいへんだ)」
と思って、どんどん逃げたてが。馬泥棒の方は、
「この馬に逃がしてなるものか」
と馬鹿になって、両方の耳しっかり押さえて、どこまでもつかまっていったと。
そのうちに、夜が明けて見たれば、おおいんの背中に乗っていたがだと。馬泥棒はたまげて、
「こらまあ、おおごっだ。はや逃げんとおおいんに食われてしもう」
と思って飛び降りたと。
そこら見たら、山の炭小屋があったてんが、その炭小屋に隠れたと。
おおいんは
「ああ、いかった。ふるやのもりがやっと離れた。もうちっとで、食われるどこだった」
とフウフウようて寝ていると、そこヘサルが来て、
「おおいんどん、なにそっげにフウフウようていらっしゃる」
と聞いたと。おおいんは
「いや、おっかんかった。おれは今、ふるやのもりに食われるどこだった。ふるやのもりは、おれにばれてここまで来た」
サルは
「ふるやのもりってどっげのもんだい、」
と聞いたと。おおいんは
「いや、どっげのもんだか。わからんども、その炭小屋へ入った」
とようと、
「ほうかえ、ほうせば、おれがその炭小屋へ行ってみてくる」
とようて、さるは炭小屋行ったと。
その炭小屋のすきまから、長いしっぽ入れて、グルグルかんもしたと。
ほうしたれば、馬泥捧がしっぽにしっかりとしがみついたと。
サルはたまげて
「ふるやのもりや、許してくれ」
とようて、いっくら引っ張っても離さんかったと。
サルは、せつなまぎれにごうぎ引っ張ったら、しっぽが切れてしもうたと。
あんまり力いれて引っ張ったんだんが、顔もけつも真っ赤になったと。
そっで今でも、しっぽがみじこくて、顔もけつもまっ赤だと。
いきがきれた。
……読み比べてみたい昔話
共に<動物の闘争>をテーマとしたお話です。