鴻の池の法事
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
とんと昔があったげろ。
大阪に鴻の池という旦那様があったと。
その家じゃ、他の旦那衆(しょ)集めていい法事したと。
そこの家じゃ、いい法事したつもりで、家の番頭によいつけて世間の評判を聞かさしたと。
番頭は、そこらじゅうさわぐろも、なんの評判も聞かんなかったと。
あるどき、渡し舟の中に、牛をつれた牛方がいたと。
川のちょうど真中ごろに、きたら、牛がしょんしょんと小便(しょんべん)したと。
牛方は、岸にあがってから
「このばかやろう、大阪の鴻の池と同じことをしやがった」
というて、牛をごうぎしゃげつける(強く叩く)がだと。
番頭はおかしなこという人だと思うてその牛方に
「お前さん、今牛が川の中で小便したら、鴻の池の法事と同じことしゃがるというたが、それは、いったい、どういうわけだ」
と聞いて見たと。ほうしたら、牛方が
「こねさ、鴻の池でいい法事したといばっているろも、てめえと同じ金持ばっか呼んで、こちとらみていのがん、誰でもよばんかった。この畜生も、丘の上で小便こけや、草木が吸うて、でっかなるろも、川の中でこけやだれも得するがんがねえ」
というて聞かしたと。番頭は、
「そうもあるか」
というて、家に来て、主人にこのことをいんな話したと。
主人も、
「そうか、そうか、それじゃひとつ、その牛方をよばってきてくれ」
とたのんだと。
ほうして、番頭が、牛方をよばってくると、鴻の池の主人は、牛方に
「おめえさんは、まあいいこと聞かせてくれた。おれは、なんでも知らねんだんが、あっげのことしたが、ひとつ、おらこの番頭になってくんなさい。ほうせやおらこには、倉が七つあるが、そのうちおめえさんがいっち好きのがん一つくれるが」
と話したと。牛方も承知して、七つの倉をいんな見てから
「この倉がいっち好きら」
というたと。
他の倉は、金銀宝が、どうろ入っているでがんに、その倉は、牛や馬の道具ばっか入れておく倉だったと。
牛方だんだんが、牛の道具の他は、なんもいらんがっだと。
これでいきが、ぽーんとさけた。
法坂 樋ロソメ
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