おっかかのたね
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
秋山というところは、ずいぶん山の中で、その話でございます。
そこへじさとばさと二十歳の息子が住んでいたそうです。
せがれは二十歳になるろも、ちいと知恵がおくれて、ぼんぼんという子があったそうです。
春がきて、二人してへんなかへあたっていると、じさが、
「かか、かか、春も来たようらが、きょんな(去年)里へ下りたら、めいだんごこしょうてもらうて食うたが、ことしは、種まいて、ねらにも食わしたいと思うが、それには、里へ種買いにいがんけならねい。いってこうねか」
と話したと。それをぼんぼんが聞いていて、
「とっつぁ、おが里へいってみたいすけ、おが行ぐ」
というてんがの。かかが、
「ぼんぼん、なあ里へなんかいったことがないんだすけ、そんげのこというろも、里てやなあ、遠いところで、いがんねぜ」
というろも、ぼんぼんは、
「おが里へいってみたいすけ、おが行ぐ、おが行ぐ」
というがだと。かかは、承知して、
「ぼんぼん、なあもへえ、いい年になったんだんが、里は、まつすぐの道られ、行がれるすけ、あした天気がいかったらいぐらぜ」
というて、その晩は、いんなが休んだと。
次の朝、かかは、朝早く起きて、外見ると、お天気げらんだんが、さとへ、ぼんぼんを種かいにやろかと、どうろまんま炊いて、でっけいやけめし二つにぎって、そんに味噌どうろつけて、へんなかでこがこが焼いて、ほうの葉二枚でくるんでできたと。
こんだぼんぼん起こそいやと思って、部屋へ行ぐと、ぼんぼんはへえおきていて、こぎれこぎれした着物に着がえて
「おが行ぐぜ」
というて、喜んで出て来たてんがの。とっつぁとかかが、
「ぼんぼん、なあは、里へあわの種二つかみ買いに行くがだ。よくおぼえていれ」
というて、かかのこしょうてくれた巾着の中に銭(ぜん)入れて、腰にいつけてくれる。
かかのこしょうたやけめし二つ手拭いに包んで首にかけてくれる、してくれたと。
「ああいってこい。道まちごうな」
というて、一人して送りだしたと。
ぼんぼんは喜んでいさいさ山へあがって、だんだんいぐがだと。
ほうしると、ばかげにみはらしのいいどこがあったんだと。
おら、ここでひとつやけめし食うかなと、腰おろして、食い出したら、めえくてめえくて、ひとつは、帰りに残しておけというがだろも、二ついんな食うてしもうた。
二つくって、
「ああまかった」
というだろも、のどがへて、のどがへて、どっかへ水がねえかなと思ってみると、川があったてんがの。
そこへ寝そべって水をごくんごくんと飲んで、
歩き出すと、腹がおかしな音がして、ぷっと屁が出たてんがの。
「おっかおか」
というと、またぷっと出て、
「おっかおか」
というていたと。
そのうちに、あわの種三つかみ、あわの種三つかみというて来たがん忘れてしもうて、
「おっかか三つかみ」
というてしもうた。
ほうして、里の店へはいって、
「おっかかの種三つかみ買いに来たが、あるろうか」
ときくと、店の人が、
「そんげのがん、ねえのう」
というんだんが、別の店へいってみると、またない。
ほうして、店の亭主が、
「おっかかというろも、それてや食うんだかい。着るんだかい」
ときいたと。
「おらこのとっつぁが、里へいってもらって食ったら、めえだんごらったというんだが、食いもんだろう」
というたと。ほうしたら店の人が、
「おっかかの種なんて、ないろも、そばの種三つかみやるすけ、それもっていってみれや」
というて、そばの種あつけたと。
ぼんぼんは、それもらって、喜んで家へ帰っていったと。
家の方じゃ、ぼんぼんが初めて里へいったんだんが、道まちがんでこいばいいがと心配して、またしっちゃおんにゃ(にわ)へ出てみたと。
そのうちに、ぼんぼんが帰って来て、
「ぼんぼん行ってきたか、よした、よした。さあ、まんま食うか、湯ヘへえるか」
とはやしたっていると、とっつぁも来て、
「種こうて来たか」
というと、ぼんぼんが、
「ああ、こうて来たぜ」
というて、出してみせたと。それは、黒い種だんだんが、
「おが見た種らかなあー」
と思ったろも、しまっておいて、それを畑へまいてみると、芽が出たと。
それが花が咲いて、実がなってから、木挽きどんが来たんだんが、粉に挽いて、あつい湯入れて、塩入れて飲ませるとなじょんかめえとよろこんだと。
それを鉢へ入れてこねて、だんごつくって、食ってみると、ばかげにめえかったと。
それが村中の評判になって、どこでもそばつくるようになったと。
「ばかのぼんぼんというろも、たいしたもんだ」
と村中で、ぼんぼんほめたと。
これでいきがぽーんときれた。
楢沢 関ロタミ
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