小僧と鬼婆
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
とんと昔があったげろ。
和尚と小僧が住んでいて、小僧は、和尚にたのまれて、山へお花取りにいったと。
その時、和尚が、
「途中でおごと(困った)のことがあったら、これを使いや」
とお札を三枚くれたと。
お花を取っているうちに日が暮れてしもうたと。
もどろうとすると、外は真っ暗で、遠くにチカチカあかりがするだと。
そこへいってみると、中に年よりの婆さが一人いたんだんだが、
「婆さ、道に迷ってしもうたすけ、とめてくんねか」
というんだんが、泊めてもろうたろも、食いもんが一つないがだと。
「これはおかしのどこへ来てしもうた」
と思うて、おっかん(恐く)なったと。
「便所へいがしてくんねか」
と小僧がいうと、婆さまは、怒って、綱つけて逃げらんねようにしたと。
便所へ入ると、小僧は、和尚からもろうた礼に綱つけて、婆さまが、
「小僧、もういいかや」
と聞くと、
「まだまだびっちびっちのさかり」
というて逃げだしたと。
またちいとめると
「小僧、もういいかや」
と聞くと、だっでもいねえ便所の中から
「まだまだ、びっちびちのさかり」
という声がしたと。
あんまり出てこねんだんが、婆さまはごう煮やしてとんでいってみたら、綱は札をつけて柱にしばってあったと。
婆さまはごうぎに怒って、小僧のあとぼっかけていったと。
小僧は追いつかれるとおごとだんだんが、和尚からもろうた札を投げて、
「大川になれ」
というたら、大川ができた。
だろも婆さまは、じゃぶじゃぶと音たって、川こざいててきたと。
ほうして、またつづかれそげになったんだんが、和尚からもろうた三枚目の札を出して、
「大山になれ」
というたら、でっけえ山ができて、婆さまも越えらんなかったと。
そこで、小僧は無事、お寺に戻ってきたと。
これでいきがすぽーんときれた。
楢沢 高橋篤太郎
……もっと読んでみたい昔話