はなとふじ
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
むかし、はなとふじが、あったてや。
はなは、いまのかかの子で、ふじは、もとのかかの子だったてや。
「ねら、ねら。きょう、栗まんましてくれるすけに、栗ひろいにいってこいや」
と言ったてんがのう。
栗ひろいにいって、遠くの山についたと、そうして、お昼になったと、ふじが
「はなはな。まんまくおうねか」
と言ったと、そうして二人は、腰(こし)かけてダンゴを出したら、はなのダンゴは白いうんめいダンゴで、ふじのダンゴは黒いまあずいダンゴで、ふじが
「はなはな、なあがん、まあげらね(うまそうだね)。一つかえてくれ」
と言ったと。はなは
「おれやられ」
というろも、そっでもかえてくれと言ったと。はなは
「かかにだまってれや、そうしたらかえてやる」
と言って、
「ほうらや」
とダンゴを投げたと。
そうしたら、ダンゴは山の坂道をゴロンゴロン、ゴロン、ゴロンゴロンところがっていったと。
そうして、ふじは、ダンゴを追いかけて
「ダンゴまて。ダンゴまて」
と行ったら暗くなったと。
「こらまあ、暗くなっておごった」
と思っていたら、向こうの方に明かりがチカンチカンと見えたてや。
そして、ふじは、そこへ、
「こん晩(ばん)は」
といったてや。
そうしたら、ごうぎな、でっこい、ばさまが火をたいていたと。ふじが
「今晩、一晩泊めてくんねぇか」
と言ったと。ばさまは
「ふじらねか」
とこうぎな声で言ったと。ふじは
「おっだぜ」
と言ったと。ばさまが入って泊まれと言ったので、ふじは泊らせてもらったと。ばさまが
「ふじ何が好きらや」
と言ったと。そうしたら、
「おら、ぼた餅(もち)がいっち好きらぜ」
と言ったと。
そしたら、でっけい、なべで、あんこを煮て、朝めしになったら、ぼた餅くわしたと。そして
「ふじふじ、おれの頭におっかねえ、シラミがいたすけに、火ばしで取ってくれ」
と言ったてや。
そして頭をわけると、ヘビがちょろちょろ出たてや。
それを火ばしではさんで
「はい、ばさ」
とやると、くちゃくちゃと食べたと。
そして、きれいにとかしてやったと。
そうしたら、ばさまが喜んで
「ふじ、ふじ、良い宝きんちゃくやるぞ」
そして、また、ばさまが言ったと。
「ふじ、ふじ何でもほしいものを言って、たたくと何でも出るすけに、何でもほしいときにたたけ」
と言ったと。
そうして、ふじが、家にかえると、
「ふじふじ、おらと、かかと、しばや(芝居)見に行ってくるすけに、いす(石臼)ふいて(挽(ひ)いて)くれ」
と言ったと。ふじは
「はいはい」
といすをふいていたと。
そして、はなとかかと、しばや見に行ったころ、ばさまから、もろた、きんちゃくを出して
「いい、着物(きもん)出れ。いい、帯出れ。いい、下駄出れ。おしろいも出れ。白足袋もでれ。口紅もでれ。いいかんざしもでれ」
と言った。そして、おしろいつけたり、口紅つけたり、かんざしさしたり、着物を上手に着たりしてから、
「みかん出れ。こうめし(赤飯)ひとつ出れ。馬、一頭出れ」
と言うて、ふじは、みかんに、こうめしを馬につけて、自分でも馬に乗って、しばや見に行ったてや。
そして、行くと、かかとはなと見ていたと。
そうして、ほかの人に、こうめしやみかんをくった(くれた)ろも、はなとかかには、なんにもくれねかったと。
そして、しばやが終りそうになったら、ふじは、家に帰って、今まで食った物を、また、みんなきんちゃくの中に入れたと。
そして、はなとふじが帰って、
「ふじ、おら、しばやおもしろかった」
と言ったと。ふじは、
「おお、いかったなあ」
「でも、なあみていな、あねさがいってたろも、みかんとこうめし持っていって、人にばっかくって、おらとかかには、なんもくれねかっと。だすけに、みかんの皮ひろてきと。なあにもくっどか」
と言ったけど、ふじは
「おら、そんげながんいらね」
というて、いきがぽんときれた。
原小屋 小川トネ
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