金をこく獣(けもの)
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
兄とおじがあったと。
父親が二人を呼んで
「お前らにこれこれの金をくれるすけ、兄がいっぺえにするか、おじがいっぺえにするか、どっちがいっぺえにしてくれるか」
といって金をあつけたと。
おじは一生懸命家の手伝いをしるてがんに、兄は、なんもかんもねえ(どうしようもない)、仕度の悪いごうぎな着物(きもん)着て、八百円もろうて家を出た。
旅の道中、夕立が来て、寺へ逃げ込んだら、そこの方丈様が、たすきがけで、雨もりするとこへ置くたらいを動かしていたと。兄は、
「この本堂の屋根葺きかえるにはどれだけの銭がかかる」
と聞いたら、方丈様は、
「これこれかかるがの」
というんだんが、その金払(はら)うて行ったと。
また雨におうて、お宮に逃げこんで雨宿りしていると、そこの屋根、あんまりいたんでいるんだんが、そこを出て、村の総代様にいったと。ほうして
「お宮様の葺きかえにいくらかかる」
と聞いたら、
「いくらいくらかかる」
というんだんが、その金も払っていった。
それから北海道に出て、鉄砲撃ちの手伝いしていたと。
長いこと手伝いをしていたら、主人が、
「お前も長らく働いているが、こういう獣が獲れたが」
というて、ねこみてえのがんをくれたと。
それを給金がわりにもろうて、家に帰ってくる道中昼休みしていた。
うつらうつらしていると、むこうから、方丈様、おちょうろうさまが通りかかった。
ほうして、兄のもっている獣を見て
「これは徳のある人だ。この獣は、徳のある人の持つがんだ。この獣は、こめ一粒くれれば、金一粒こくがんだ」
というた。せがれは、
「これはいいこと聞いた」
と思うて、こめ屋へ行って、ねごうでこぼれこめもろうたと。
ほうしてこぼれこめ一粒食して、手でなでると、銀貨をすとんとこくだと。
故郷(こきょう)へ帰って、自分の生まれた家へ入っていったら、女中がめっけて
「家の若旦那のような人だが…」
と家の人に知らせたと。家の人は
「どっげの身なりで来たや」
と聞くと、女中は
「みなりだけは見なかった」
というたと。家の中に案内したろも、あんまりきったねんだんが、穀倉の中へ入れて、外から鍵かけていたと。
せがれは、倉の中で、こめを食うと金をこく獣に、こめを食わしちゃ、金を出していたと。
後から家の人がいってみたら、倉の中が明るいようのがんだと。
さんばいし(俵の両脇の蓋)に腰かけてばっかいるんだんが、
「兄は、どうも仕方がねえ、おじは精出して仕事しているろも」
というて、中へはいってみたら、倉の中が金でいっぺえだったと。家の人は
「せがれはせがれだけある」
というて、ごうぎに喜んだと。
出羽の本間久四郎(ほんまきゅうしろう)という人の話だった。
太郎丸 長谷川モト
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