サルと蛙の寄合餅|新潟県の人気昔話の解説

新潟県に伝わる代表的な昔話を取り上げ説明します。解説は長岡民話の会顧問、高橋実さんです。最初に昔話の解説、その後に元話を掲載します。

解 説

 この話は「さるとひきの寄合田」ともいわれる。動物たちが共同して食物を得ようとする話である。紹介した話は、猿と墓蛙が餅を盗むところから始まっているが、二匹の動物が収穫を目途に田を耕し、種を撒き、収穫までの共同作業を、一方が怠けて、そのくせできた食料を独り占めしようとして失敗する話である。食べ物に意地汚い猿の一面がこの話になっている。

 小国地区では、猿の代わりにウサギとなっている。この民話に登場する動物は、ウサギと蛙、猿と蟹の組み合わせになる場合もある。

 猿は、昔話の中にたびたび登場する。「猿婿入り」「猿神退治」など山の神の変化したもの、山の神の使いとされている。一方猿は、水が嫌いで、「猿婿入り」で猿が川に流される場面や「猿地蔵」で猿が大勢で爺を運んで川を渡る騒ぎなど水嫌いな猿の一面がでている。

 猿は猿蟹合戦で代表されるように狡猾ないたずら者の役柄を演じている。猿蟹合戦は、猿が蟹から柿や餅を騙し取り、蟹が粟・蜂・牛糞・臼などの援助で猿の仇を討つ話であるが、この原型がここに紹介した「猿とひきの寄合田」だったと言われている。その話の中に後半の合戦部分が加わって、猿蟹合戦が成立した。

 墓蛙で代表される蛙もまた「雨蛙の親不孝」など民話にたびたび登場する。生活の中でなじみある生き物だった。「蛙が鳴くと雨が降る」など天気占いにも使われる。猿が山の神の使いとされているように、蛙もまた神の使いと考えられていた。「姥皮」で娘を助ける姥皮を与える老婆は、蛙である。蛙は不思議な力を持つ生き物と考えられていた。

 この話を元に、「ふくがもんはふくが好き好き」ということわざができている。「自分のことは自分で好きなようにするからいらぬ干渉をするな」という意味である。

 

サルと蛙の寄合餅

あったてんがの。

ある村のうちで、子どものタンジョウモチを、ついていたてんがの。

ほうして、トンコトンコトンコと、音がしていたれば、そのうちの裏の山で、サルとフク(1)が、そのモチつく音をきいていて、「フクどん、フクどん、あのモチ、食いたくないか。」「そうだ、おれも食いたい」「そいだば、お前とおれと二人して、あのうちのモチを取って食おう。お前は、あこのうちへいって、井戸の中へ落ちて、子どもの泣き声をしれや。ほうせば、うちのしょが、モチつきをやめて、井戸端へとんでいぐすけ、そのこまに、おれが、ウスぶて、裏の山へ持ってくる」「そうか」ほうして、二人して、相談したてんがの。

フクは、そこのうちの、井戸の中へ落ちて、アーンアーンと、子どもの泣くまねをしたてんがの。

ほうしると、家のしょは、「そら、子どもが、井戸の中におった」というて、モチつく杵をおっぱなして、井戸の端へ、跳んでいったてんがの。

ほうしると、そのこまに、サルが臼をぶて、裏の山へあがってしもたてんがの。

ほうして、家のしょが子どもだとおもて、井戸の中から、あげてみたれば、フクが一ぴき、あがってきたんだんが、「いや、フクめ、お前がおったがらか。いや、たまげた」というて、もとの臼のどこにきたれば、モチが、臼ぐちら(2)、ないてんがの。

ほうして、サルは、餅臼を山へもっていって、フクを待っていたてんがの。

フクは、パッタラパッタラと、山へあがっていったてんがの。

「フクどん、フクどん。このモチを二人で分けるよりも、山の上から、転がり落として、とったんがち(3)にして、食うことにしょうねかい。」

ほうして、サルが山の上から、臼を転がり落としたてんがの。

サルは、チョロチョロと、転がっていく臼について、下へおりていったてんがの。

フクは、あとから、パッタラパッタラと、いったてんがの。

ほうしると、ツツジカブツに、臼のなかのモチが、とび出て、ふっついていたてんがの。

ほうしるんだんが、フクは、そのモチを、アクンアクンと、食うていたてんがの。

サルは、臼について、下までとんでいって、ウスのなかを見たれば、モチがねえてんがの。

ほうしるんだんが、サルは、こら、おおごったと、戻ってきたてんがの。

ほうしると、フクが、ツツジカブツから垂れそうになったモチを、うまげにしてくているんだんが、サルは、「フクどん、フクどん。さがった方からおまられも(4)」というて、くいたがっていたてんがの。

ほうしると、フクガエルは、「さがった方からくおうげれ、あがった方からくおうげれ、フクがもんで、フクがすきすき。」というて、くていたてんがの。

いきがポーンとさけた。

【出典】『赤い聞耳ずきん』水沢謙一著 下條登美さんの語りより
【注】1.フク(ひきがえる) 2.臼ぐちら(臼ごと) 3.とったんがち(先にとったものの所有となる)4.おまられも(食え。この語、筆者にはなじみがない)

※高橋実著『越後山襞の語りと方言』雑草出版から著者了承のもと転載しました。

 

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