大年の客|新潟県の人気昔話の解説

新潟県に伝わる代表的な昔話を取り上げ説明します。解説は長岡民話の会顧問、高橋実さんです。最初に昔話の解説、その後に元話を掲載します。

解 説

 年末が近づいたので、前回に続いて「大歳」を取り上げた。ザトンボは、盲目の放浪者、宗教芸能者。民話の中に登場するのは、瞽女と同じように民話の伝播者であったせいだろう。

 同じように昔話に登場する放浪者に六部がある。これは、「六十六部日本廻国」の略で、背にお経の入った厨子を背負い、日本国中を回って法華経を唱える遊行僧だった。後に座頭も六部もその本来の姿を離れ、単なる放浪者・遊行者となった。他にも巡礼、乞食、などかつては多くの放浪者がいた。

 私の近所でも、昔日本廻りした家と言うのを聞いたことがある。こうした人達が、路銀を持っているわけでなく、どうして暮らしていたのか、不明な点も多いが、四国八十八箇所めぐりをした大正時代の、旧塩沢町出身の宗教家田村空観は、小金をためて、家の近くに宗教施設を建てるまでになった。遊行僧を歓待する習慣は、日本に古くからあった。家を離れられない自らに代わって上方参りをしてくれるお礼代わりに歓待したのである。

 ここでも前回の「大歳の火」と同様大晦日の訪問者を親切にもてなしたために、訪問者の座頭が黄金に変わるという話である。これに隣の爺失敗談が加わる。

 新たな年を迎える大歳の夜は、古来神聖なものとされ、さまざまな行事が執り行われるが、この夜訪れる宗教者の姿をテーマとする民話は、「笠地蔵」を初めとして、数多くある。

 新しい年が明けて、初めて汲む水は、若水と言われて神聖な水だった。その水で年神への供物や家族の食物を作り、口をすすいだりする。水道が若水を汲む行為を薄れさせた。大歳の夜の火と新しい年あけての水、この火と水に寄せる人々の思いが民話に息づいている。

 

大年の客

あったてんがの。

トシトリの晩に、村にザトンボ(1)が来て、「こんにゃ、一晩泊めてくらっしゃい」と、頼むども、誰も泊めてくれるものがなかったんだんが、ザトンボが、せつながっていたてんがの。

ほうしたれば、情け深い、じさとばさが、「おうおう、それや、気の毒に、おらどこは貧乏で、なんにもないどもに、なじょうも泊まれや」というて、泊めてくれたてんがの。

ほうして、夕飯を食って寝るどき、ザトンボが、「あしたさげ(2)は、おらに、元日の若水のツルベをつらしてもらいたい。

おらが、早くおきて、井戸の水を汲むで」というたてんがの。

「お前さんは、目も悪いがんだすけ、若水汲んで、井戸へ落ちでもしょうなら、おおごとだ。そんげんが、やめてくらっしゃい」「いや、そう言わんで、おらに、若水汲ませてくれ。もし、おらが、井戸に落ちたら、おらは、ツルベの縄につかまっているすけ、お前がたは、『何だまが上がる』、というて上げてくれ」「そうか、そうか」というて、まあ、寝たてんがの。

ほうして、元日の朝げ、ザトンボは、はやばやと起きて、若水汲みにいったけが、ドボドボと、井戸の中へ落ちてしもたてんがの。

「だすけに、若水汲みなんかしるなというたがに」と、じさとばさがいうて、井戸のどこへとんでいった。

ほうして、「なにだまがあがる」というて、ツルベの縄を、ひっぱりあげたてんがの。

ほうしると、「金だまがあがる」と、ザトンボがいいながら、上がってきたてんがの。

ほうしたどこが、上がって来たのは、ザトンボでなくて、ほんとうの金だまだったてんがの。

その金だまを、火のはたに、むしろを敷いてあたらしておいたれば、ジャラガンと、そのたまがくずれて、なかから、金が、どうど、出てきたてや。

じさとばさはよろこんで、そのかねを、勘定していたてんがの。

そこへ、隣のじさが、年始にきて、「おうこ、ここのうちはどうして、こんげに、ぜんどりかねどりしられたい。おら、たまげた」と、聞くんだんが、わけを話したてんがの。

その年のトシトリの日に、となりのじさは、村はずれに立って、ザトンボの来るのを待っていたてんがの。

ほうしると、ザトンボが、杖をついて、トボトボ、あいんできたてんがの。

「ザトンボ、ザトンボ、こんにゃ、おらとこへ泊まれや」「そら、ありがたいども、はや、うちへいって、トシとらんばならん」「そんげんこといわんで、泊まれ」と、やれもか(3)いやがるザトンボを泊めたてんがの。

ほうして、元日の朝げ、ザトンボに、若水くみをしてくれというが、いやがってるんだんが、井戸の中へ、突き落としてしもたてんがの。

ほうして、「なにだまがあがる」というて、ツルベの縄を上げてみたとこが、さぶがってブルブルふるえているザトンボだったてんがの。

いきがポーンとさけた。

【出典】『赤い聞耳ずきん』水沢謙一著 下條登美さんの語りより
【注】1.ザトンボ(座頭、盲目の男の芸能者) 2.あしたさげ(明日朝) 3.やれもか(無理やり)

※高橋実著『越後山襞の語りと方言』雑草出版から著者了承のもと転載しました。

 

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