若返りだんご|新潟県の人気昔話の解説
新潟県に伝わる代表的な昔話を取り上げ説明します。解説は長岡民話の会顧問、高橋実さんです。最初に昔話の解説、その後に元話を掲載します。
「若返りの水」といわれる話である。一般的には、爺と婆がいて、爺が屋か[ママ・不明]に行き、水を飲んだところ若返って青年になる。家に帰ってくると、婆がびっくりして、自分も若くなりたいと思って出かけてゆく。なかなか帰ってこないので、爺が様子を見に行くと、水を飲みすぎて赤子になっていたという笑い話になっている。ここでは、水の代わりに団子が出てくる。しかも、それを食べるのは、爺でも婆でもなく、第三者の魚屋である。初めの部分は、前に紹介したほら貝の婿と同じ場面が出てくる。小さ子の変種のような話である。
ここで、問題にしたいのは、老人が時間を超えて若返る話である。民話の世界では、時間が急に早くなったり、遅くなったりする。民話の世界は時間を自由に操作できるのである。浦島太郎が玉手箱を開けると時間は一度に押し寄せてたちまち老人になってしまう。寺泊などに伝わる「八百比丘尼」伝説もそのひとつである。弥彦の神が野積の人に農耕や塩焼きの技術を教えていた時、近くの三人を招待し、珍しい動物の肉といってお土産を渡した。二人は気味悪がって食べなかったが、それは人魚の肉で、高津金五郎の娘が食べてしまった。それで、娘は不老不死の体になってしまった。やがて嫁入りするが、三十年たっても、十七歳の娘のままだった。そして夫を変えること三十九回、五百歳をこえても年取らなかった。その後、娘は自分が年取らないことを悲観し、尼になったが八百歳まで生きて、死ぬことが出来ず、自ら命を断ってしまったという。
寺泊野積の高津家では、比丘尼手植えの松が残っているという(『新潟県伝説集成中越編』小山直嗣著)。
水沢謙一著「とんと昔があったげど」第二集に旧山古志桂谷小池タイさんの語った「ブヨの一時」という話が載っている。畑仕事行った若者が、のどが渇いて水をもらいに寄った家に、若い娘がいて、婿になって欲しいと頼まれる。その家の婿になって三年、子供もできた。家が恋しくなって大急ぎで帰ってみると、家のものに「お前は何遊んでいるんだ。家のものはもう朝飯食ったぞ」と叱られる。そんなはずはないともう一度娘のところに戻ってみようとするが、そこには家はなく、ブヨが蜘蛛の巣に引っかかって死んでいたというのである。ここでは、ブヨの世界で過ぎた三年が、現実世界で朝飯前のひと時だった。
正月に若水を汲む風習は各地に残っている。歳の初めに汲む水は、神聖な水でこれを歳神に供え、口をすすぎ、雑煮を作った。正月に子供に与える小遣いを年玉というが、これの元は餅や米をさし、これを食べると年を取ることから生まれた語である。若水と不死、若返りの思想は日本文化に古くから根付いていた考え方である。水の持つ豊穣作用を人々は早くから気づいていた。旧堀之内町で行われている「花水祝い」の行事などもそれに結びつくものかもしれない。水を飲むことで胎内に新しい生命が芽生えると信じられていたようだ。
若返りだんご
あったてんがの。
あるどこに、子もたずの、とっつあとかかがあったてんがの。
ほうして、子どもがほしいんだんが、とっつあが、ちんじゅさまにおまいりにいって、三七、二十一日の願掛けをしたてんがの。
ほうしたれば、神さまがいいなさるには、「せっかく、お前が、真剣で、願掛けしているども、お前に授ける子どもはねえ。このダンコでも一つ、お前にくっるすけ、これ持って帰ってくれ。若返りダンゴだ」ほうして、ダンゴ一つ、くれなしたてんがの。
とっっあ、ダンゴもろうて、家へ帰ってきたてんがの。
そのダンコが、若返りダンゴがらてんがの。
「かか、かか、子どもをさずからんかったども、神さまから、若返りダンゴを一つ、もろうてきたや」「おうこ、そらまた、おもしいダンゴだねか。そのダンゴ、だれが食う」「おれが食うこて」「なに、そうであろうば。おれだこて」ほうして、二人して、ダンゴ一つ、だれが食うとて、けんかしていたてんがの。
ほうしたれば、そこへ、魚売りが、「魚、いらんか、魚、いらんか」というて、来たてんがの。
とっつあとかかがけんかして、いらるんだんが、「お前がた、まあ、なに、けんかしていらっる」「いや、こうこういうわけだ」というて、とっつあが、神さまからもろうてきた、ダンゴの話をしたてんがの。
ほうしたれば、魚屋が、「だけや、そのダンゴ、おんに、ちっと貸してくらっしゃい」というて、そのダンゴを、手にとってながめていたけや、そのダンゴをくてしもたてんがの。
「あ、これ、だいじなダンゴ、どうしるがら」というているうちに、その魚屋が、ちんこい、赤っ子になって、オギァーオギァーと泣いているでんがの。
「これくっさあ、神さまがさずけてくらした子どもだ」というて、大事に育てたてんがの。
いきがポーンとさけた。
【出典】前掲『赤い聞耳ずきん』水沢謙一著 下條登美さんの語りより
※高橋実著『越後山襞の語りと方言』雑草出版から著者了承のもと転載しました。
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