あわぼこ・こめぼこ|新潟県の人気昔話の解説

新潟県に伝わる代表的な昔話を取り上げ説明します。解説は長岡民話の会顧問、高橋実さんです。最初に昔話の解説、その後に元話を掲載します。

解 説

 「糠福米福」といわれる話。ヨーロッパに「シンデレラ」と同型である点で注目される継子話。日本では、東北から九州まで広く分布するが、特に東北地方と日本海側に濃厚に分布しているという。水沢謙一氏の『越後のシンデレラ』(昭和三十九年、野島出版)もある。この話では、糠の代わりに「粟」に変えられている。「越後のシンデレラ」では、七十五話のうち「あわ」が三十四話、「ぬか」が三十七話でほぼ半分ずつになっている。米が後妻の子で、粟・糠が先妻の子になっている。シンデレラと違って靴を合わせる話は聞かれない。嫁入り条件として石臼挽きという手先の器用さ、歌詠みという教養の二つをテストしている。水沢謙一氏はこの話には女児の通過儀礼が反映されているとその著書に説明している。子供から成人に変る過程で新しい社会的義務と権利が与えられる。昔の元服などその一例である。女児を山へ栗拾いにやらされるところは、女児の初経習俗の反映としている。かつては、月経や出産の血は穢れたものとして家から離れた別小屋に隔離された。

 

あわぼこ・こめぼこ

あったてや。

むかし、あるどこね、あわぼことこめぼこって、女の子があったてや。

あわぼこのおっかさまは、あわぼこがちんこいどき、死んでしもたすけ、こんだ、後妻がござらして、ほうしてこめぼこが、うまれたてがんだ。

秋ねなって、ままがか(1)が、あわぼこには、穴のあいた袋を、こめぼこには穴のあかないいい袋をもたせて、山へクリひろいにいかせたと。

二人して山へいって、クリひろいしたてや。

あわぼこの袋は、穴があいていてクリは、いっこうたまらんし、こめぼこの袋には、いっぺたまったてや。

あわぼこは、「おいら、ふくろにいっぺになったすけ、うちへかえろうや」というて、さっさと帰ってしもうたと。

米ぼこの袋はいっこうたまらんで、ひとらで山にのこって、クリひろうているうちね、くろうなってきたてや。

山の木のもとに、いつかねってしもたてや。

ほうしたら、死んだおっかさまがでてこらして、望みのもんがなんでもでてくる打ち出の小槌をくれたと。

あわぼこはこずちをたたいて、「クリいっぺ、でれ」っていうたら、クリがいっぺ、でてきたてや。

そのクリ、ふくろのなかにいれて、うちへかえってきたってや。

ほうしておそうなってきたてがで、ままがかに、ごうぎ、おどされたてや。

ほうして、こんだ、お寺のまえに、しばいがあったてや。

ままがかは、こめぼこに、いいきもんきせて、こめぼこばっか、しばい見につれていったてや。

あわぼこにはいすす挽き(2)をいいつけたと、あわぼこは、しかたがね、留守居していすす挽きしていたども、粉がたまらんすけ、困っていたって。

ほうしたら死んだおっかさまから、山でもろてきた、うちでの小槌をたのんだれば、そんま、粉が、箱いっぺに出てきたてや。

こんだ芝居に行くとて、小槌にたのんで、いいきもんをだして、それきるとりっぱな、いとしげな娘になったてや。

こんだおまん十二へぎとお供だして、お寺へ芝居見にいったてや。

お寺には、人がいっぺいて、きれいなあわぼこを見ているてや。

あわぼこは、もってきたおまん(3)を人にくれてやったてや。

あわぼこは、芝居のおわらんうちね、早くかえってきて打ち出の小槌にたのんで、きもんもへぎ(4)も消してしもうて、風呂の火焚いていたてや。

こめぼこが、「今日はどっかのきれいなあねさからおまんをもろうた」というたと。

あわぼこはしらんふりしていたと。

他村の庄屋の若旦那が、あわぼこをお寺の芝居でみて、どうしても嫁に欲しいといってきたと。

ままがかが、「芝居見にいったのは、こめぼこだすけ、こめぼこ嫁にもろうてくれ」と頼むども、「こめぼこじゃない」というたと。

二人でいすすまわして上手に粉を造ったのを嫁に貰うことになったと。

あわぼこの挽いた粉が細かいいい粉だったと。

ままがかが聞かないんだんが、こんだ歌の読み比べして上手に詠んだがんを嫁にしることになったと。

皿の上の塩を盛って松の葉を挿してそれを歌に詠むのだてや。

こめぼこが、
   よんべな、しった猫の糞水気だって今朝しった猫の糞息がほやほや
ときったね歌詠んだと。

あわぼこは、
   さらさらとさらさら山に雪降りて雪を根として育つ松かな
て歌をよんだと。

やっぱし、あわぼこの歌がいい、あわぼこが嫁に決まったと。

あわぼこは、打ち出の小槌で、きれいな嫁入りきもん出して、いとしげな嫁御になって庄屋の若旦那の嫁になって一生、安楽に暮らしたと。

いっちさかえ、なべのしたカリカリ。

【出典】『栃尾郷昔ばなし集』昭和三十八年 保科ソメさんの語りより要約
【注】1.ままがか(継母) 2.いすす挽き(石臼挽き。石臼で米を粉に挽く) 3.おまん(まんじゅう)4.へぎ(剥ぎ。木を薄く裂いて造り包むもの)

※高橋実著『越後山襞の語りと方言』雑草出版から著者了承のもと転載しました。

 

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