ほらがいの婿|新潟県の人気昔話の解説

新潟県に伝わる代表的な昔話を取り上げ説明します。解説は長岡民話の会顧問、高橋実さんです。最初に昔話の解説、その後に元話を掲載します。

解 説

 一般的には「タニシ長者」「タニシ息子」といわれている話。下條登美さんの語りでは「ダイロの嫁どり」「ツブのよめどり」となっていて、ほら貝ではなくて、ダイロ(カタツムリ)ツブ(タニシ)が主人公である。ここでは、ほら貝がお嬢さんのほっぺたにくっつくが、「ツブのよめどり」は、持ってきた香煎を寝ているお嬢さんの口の周りに塗りつけて、嫁にして連れてくる話となっている。共通していることは、ほら貝もカタツムリもタニシも殻が螺旋状に巻かれていることである。一寸法師や桃太郎のように小さ子の誕生がこの話の眼目である。この異形の動物は、神仏の霊力で授かった申し子である。異形でこの世に誕生し、優れた能力をもち、良き相手を得て幸せに暮らす。

 

ほらがいの婿

とんと昔があったげろ。

じさとばさが住んでいたろも、子供がなかったと。

ばさは「じさじさ、鎮守様へ願掛けして、子供授けてもらおうねか」というたと。

じさまも、「そうしろう」というて、お宮参りにいったげろ。

二十一日目の朝方、ばさが、「今、神様の夢じらしか、お宮の奥の院の縁の下に、小さい、ほらっ貝がいるすけ、子供らと思うて、大事に育てうといわれたぜや」というたと。

二人でお参りして、縁の下見たら、ほらの貝がひとつめっかった。

ほうして家へつれて来て、藁のつぐら(1)作って、子供らと思うて、毎日毎日まんま食わしていたと。

ある時ばさが、「お前が子供だったら、町へ使いに出して、苧でも買うてきてもろうのだろも、それもだめらしなあ」というたと。

ほうしたら、ほらの貝が、「おが行って買うてこうかい」というたと。

ばさまは、たまげたろも、銭をふろしきに包んで、かつがしてやったと。

ほらの貝は、ずるんずるんとそれをひきずって、町へ出て行ったと。

じさとばさは、どうだろうかなあと心配していたと。

むこうの方から、ほらの貝が苧かずいてきたんだんが二人は、なじょんかたまげたと。

それからまたちょっとめてから、ほらの貝が、「おら、嫁もらうてくるすけ、着物と羽織こしょうて、そんに、風呂たいて待っていてくんねか」というたと。

ばさは、着物こしらっておいたと。

ほらの貝は、町へいって、金沢の旦那さまのような家の玄関にたって、「ごめん下さい。ごめん下さい」というと、中からおんなご(1)が出てきて、あたりみるろも、だれもいないふうらんだんが、家の中へもどろうとすると、また、声がすると。

よく見てみたら、ほらの貝がいたと。

「ほらの貝おまえかい、声をかけたのは。まあ、口をきくほらの貝がきている」というて、おんなごは、家へもってはいると、家中のものが集まってきたと。

奥からお嬢さんも出てきて、「まあ、ほらの貝が口をきくとね。どれ、かわいいこと、わたしの手の上へのせてみせて」というたと。

おんなごが、お嬢さんの手の上に、載せてやると、ほらの貝が、お嬢さんのほっぺたにぴょんとくっついたと。

お嬢さんが「いたい、いたい」と大さわぎになってしもうたと。

「だれかとってくれ」というろも、だれもとってくれらんねえで、困っていたと。

おっかさまが、「まあ、ほらの貝、おまえの好きながんやるが、離れてくんねか」と頼んだと。

ほうしたら、ほらの貝が、「このお嬢さんを、おが嫁にしてくれれや離れる」といったと。

「こらあ困ったことになった」と旦那さまとおっかさまも思ったろも、どうすることもできねんだんが、「まあ、しかたがねえこてや」というたら、ほらの貝がぼとんと落ったと。

ほらの貝は、「じゃ、嫁にもらっていきます」というだんが、お嬢さまに嫁入り仕度して、駕篭にのせ、ほらの貝も駕篭にのせたと。

荷かづきが大勢長い行列つくって、ほらの貝の家へ来たと。

「じさ、ばあ、いまきたぜ」というて、ほらの貝がはいってゆくと、じさ、ばさは、跳んででてみて、「まあ、こればっかしゃ(2)、こればっかしゃ」と嬉しくて家中跳んであいたと。

ほらの貝が、「おら、風呂へはいってくるすけ、おが風呂にはいったら、ふたしてくんねか」とたのんだど、ばさが、風呂のふたをしると、中でことことごとごとどぼんと音がして、「ふろのふたあけて下さい」というので、ふたあけてみたら、きれいで、背の高い美男子があがってきて、「さあ、着物きして下さい」というたと。

用意していた羽織、袴も寸法がぴたっとあったと。

それを着て、みなさんの前へあいさつに出たら、みんながなじょんかたまげたと。

新郎、新婦を並べて、お祝いの酒もりして、みんながよろこんだと。

二人は、親孝行して、たのしく一生暮らしたと。

いきが、ぽーんときれた。

【出典】「榎峠のおおかみ退治―越後小国昔話集』小国芸術村友の会編 平成十二年刊 粕川クラさんの語りより要約
【注】1.つぐら(稚倉・幼児をいれておく育児籠) 2.おんなご(女の使用人) 3.こればっかしゃ(これは、驚いた時発する語)

※高橋実著『越後山襞の語りと方言』雑草出版から著者了承のもと転載しました。

 

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