こうばこ|新潟県の人気昔話の解説
新潟県に伝わる代表的な昔話を取り上げ説明します。解説は長岡民話の会顧問、高橋実さんです。最初に昔話の解説、その後に元話を掲載します。
この話はよく知られている花咲爺さんである。旧三島町の民話がなかなか見つからなかったが、首都圏みしま会民話部会『だいろのひとりごと』(平成十一年刊)から拾うことできた。語りの斉藤浩一さん自身が「子供の頃祖父からよく聞かされたものですが、『こうばこ』とは、なにものかわかりません。でも『こうばこ』なのです」と書いている。確かに、「こうばこ」はこの話では、物ではなく、意思を持った動物をさしている。
「こうばこ」は、香箱で、香の入った箱を意味している。水沢謙一さんの集めた本には、なかなかこの「花咲爺さん」を見つけることが出来ない。
小国の昔話で樋ロソメさんの語った花咲爺さんは、婆さんが川へ洗濯に行くと香箱が流れてきて、その中に犬の子が入っていた話になっている。それから見るとこの話も「香箱」に入っていた犬の話が欠落してしまったのかもしれない。花咲爺さんは、「桃太郎」「猿蟹合戦」「舌切り雀」「かちかち山」と並ぶ日本の五大昔話の一つ。神の申し子で呪力を持った犬が臼になり、灰になり次々と奇跡をあらわす話になっている。そこに必ず隣の欲張り爺さんが出てきて、まねるが失敗してしまう。この欲張り爺さんは、日本独特の昔話の型と言われている。
こうばこ
むかしむかし、ある所に爺さと婆さがいたっつあ。
ある日、爺さは山へ柴刈りに、婆さは川へ洗濯に行ったてや。
ほうしたら、川上からドンブラコッコドンブラコッコとこうばこが流れてきたっつあ。
婆さは「いいこうばここっちい来い。悪いこうばこあっちい行げ」言うてこうばこを拾て家へ連れてけえったてや。
ある日、こうばこは山の畑へ肥樽担いで爺さと婆さについていったっつあ。
山ん急な坂道へ来ると「一の坂よんとこしょ。二の坂よんとこしょ。三の坂でひざついた。おめ方、ここ掘ってみらっしえ」とこうばこが言うんだんが、そこ掘ってみたけや、金銀宝物がぐゎさぐゎさ出てきたてや。
爺さと婆さは、喜んでそれを家に持ってけえって「一両、二両…」と銭を勘定していると、そこへ隣ん爺さと婆さがやって来て、「そのこうばこ、おらにも貸してくんねか」言うてむりやりこうばこを連れてったっつあ。
ほうしてこうばこだけに肥樽かずかして山へ連れてったてや。
山ん急な坂道へ来ると、「一の坂よんとこしょ。二の坂よんとこしよ…」とこうばこが言うたんだんが、そこ掘ってみたけや、がらくただのきったねもんばっかぐゎらぐゎらでてきたっつあ。
隣ん爺さと婆さは怒って、こうばこを殺して、山へほげぶちゃって(1)しもたてや。
「おうおう、こうばこや。かわいそげらな」こうばこの爺さと婆さはおんおん泣きながらこうばこを土ん中に埋めて、そこに木い植えたっつあ。
ほうしたら、木はどんどんでっこうなったんだんが、爺さと婆さはそいでもって臼こしょたてんが。
ほうしてそん臼で餅ついたけや、大判小判がじゃらじゃら出てきたてんが。
そこにまた隣の爺さと婆さがやってきて「おらにもそん臼貸してくらっせ」言うて借りてったつあ。
ほうしてそん臼で餅ついてみたけや、馬の糞らの牛の糞らのがべったんべったん出てきたてや。
二人はまた怒って、臼をはったきこわしてもやしてしもたてんが。
こうばこの爺さと婆さは、泣きながら臼を燃やした。
ほうしたら、その灰(あく)があたりにばーっと散って、枯れ木に花がせえたてや。
爺さは喜んで木に登って灰まいてたてんが。
ちょうどそん時、殿様ん行列が通りがかって、「みごとじゃ、みごとじゃ。ほうびをつかわす。こっちい来い」と殿様が言わしたんだんが、爺さは木から降りておそるおそる殿様の前に出たてや。
殿様が、「ほうびの金はでっこいのがいいかとちんせえのがいいか」と言わしたんだんが「おらあ、小んせい方がようござんす」と答えると、殿様はいっぺえこと金銀をくれたっつあ。
それを見ていた隣の爺さと婆さは、またけなりがって(2)おらどこもほうびもろおうと思て残った灰かき集めて撒いたら、灰は花を咲かせるどころか殿様の目に入ったてや。
それでも殿様は、「おまえにもごほうびをつかわす。でっこい金とちんせえ金とどっちがいいか」と言わしたんだんが、爺さが「おらあ、でっこい金がようござんす」と答えたてや。
殿様は、「よーし、でっこい金やるすけ、お前尻まくって向こう見ておれ」と言わしたんだんが、尻まくって向こうを見ていると、殿様は太刀抜いて、爺さの尻をチョッキーンと切ったてや。
爺さは「いてててて、二度とわりいことしねすけかんべんしてくんなせえ」とあやまって、それからはいい爺さになったてや。
息やぽーんとさけた。
【出典】『だいろのひとりごと』第四号 首都圏みしま会民話部会発行 斉藤浩一さんの語りより
【注】1.ほげぶちゃって(放り捨てて) 2.けなりがる(うらやましがる)
※高橋実著『越後山襞の語りと方言』雑草出版から著者了承のもと転載しました。
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