昔話の好きな婆さ|新潟県の人気昔話の解説
新潟県に伝わる代表的な昔話を取り上げ説明します。解説は長岡民話の会顧問、高橋実さんです。最初に昔話の解説、その後に元話を掲載します。
民話には話の内容にはほとんど意味がなくて、言葉や語り口の面白さが興味の中心となる形式譚といわれているものがある。長岡市の『中沢郷土史」に載っている「大根種蒔きの失敗」なども、その形式譚のひとつで、大根の種を撒こうとした男が、隣の爺さまに「はばかり(葉ばかり)ながら」と話しかけられ、翌日は、娘に「歯(葉)を虫が食う」といわれ、翌々日は村長に「そんな根も葉もない話」といわれて、とうとう大根種を撒くことをあきらめた話が載っている。こうした言葉遊びを中心とした話が形式譚である。
ここに紹介した話もそんな形式譚のひとつで、「果て無し話」「きりなし話」といわれる民話。同じ動作をきりなく反復することでいつまでも話が完結しない語りで、聞き手が閉口してしまう。蛇の「ズルン」と蛙の「ピョン」の擬態語による反復動作がいつまでも繰り返される。石田ヨミさんの語りも、池の蓮の葉の上にいた蛙が「ギャクンクルリン」と鳴き、ショと小便してチャポンと池の飛び込む動作を果てしなく繰り返す。
次から次へと話をせがむ子供達にとって、いつまでもきりがないので、そんなときに、この話をゆっくり語りだして、止めさせる一方法である。内容の展開がないため、聞き手が閉口して「もうい。もういい」というので、話の切り上げに利用される。
旧守門村の馬場マスノさんの語りでは、川の端へ栃の木があって、秋になると、口が開いてカラカラポタンと落ちて、水の上をフィッコンフィッコンと流れて、また風が吹くとカラカラポタンとおちて、フィッコンフィッコンと流れて…と続く。ここでも擬態語オノマトペが反復される。
『日本昔話事典』によれば、このはてなし話は、1、ひとつの動作の反復描写。蛇がノロノロ明日もノロノロのように。2、二つの動作の交互反復描写。蛇が鎌首をペロリ、爺がそれをプツリのように。3、多数の動作の反復描写。むかしあったげな。またしてもむかしあったげな。もうひとつむかしがあったげなのように。三分類されるという。
ここで紹介した二つの話は2に相当する。
これらの話は、中身には、意味がないのだが、語りの場を打ち切るだいじな役目をする。もういやだといわずにこれらの話を用いて、聞き手のほうから話を止めさせる先祖の知恵はたいしたものといえよう。この話は「とりの話」として利用される。私の下手な話もこれでとりとしよう。
昔話の好きな婆さ
その一
あったてんがの。
あるどこに、昔ばなしの好きなばさがあったてんがの。
「だれか、おんに、昔ばなしを語ってきかせ、おれが、それでやめてくれ、というまで語ってくれたら、おら、娘の子三人もったが、だれか一人くれてやろう」というていたてんがの。
ほうしたれば、ザトンボ(1)がたずねてきて、「ばさ、ばさ、おれが、昔ばなしを語るすけ、おれに、その娘の子をくれてもらいたい」「おう、ごぼう(2)、なじょうも語ってみれや」ほうしると、ザトンボが、「あったてんがの」というて、語りはねたてんがの。
「ヘンビとカワズが、京参りしようというて、出かけたてんがの。ほうして、ヘンビがズルンとずれば、カワズがピョンととぶ。カワズがピョンととべば、ヘンビがズルンとずる。ズルンとずっちゃ、ピョンととぶ。ピョンととんじゃ、ズルンとずり、「……………………………。」と、いつまでめえても、ザトンボは、おんなじことばっかいうていたてんがの。
ほうしると、へえ、ばさもいやになって、「なんだ、まあ、いつまでおんなじことをいうてるねか」「そっりゃたっても、京までいがんばならんすけ、まだまだ、よういじゃない。あしたまでいうても、おいないがら」ほうしたら、ばさが、「ほうせば、まあ、いいすけ、それでやめてくれ」「それじゃ、約束どおり、娘の子をおれにくれてくれ」というて、ほうして、三人の娘のうち、一人もろうて行ったてんがの。
それで、いきがポーンとさけた。
『赤い聞耳ずきん』水沢謙一著 下條登美さんの語りより
1.ザトンボ(座頭。琵琶や三味線を携え盲人の同業者集団を座という。検校・別当・勾当・座頭という分かれる盲人の官位のひとつをいうが、頭を丸めた盲人一般を指すようになった) 2.ごぼう(御坊。僧侶の敬称)
その二
池のはすの葉っぱの上に、蛙がいっぺ、あがっていたてんがな。
ほうして、一匹の蛙が、ギャクンクリリンとないて、ショとしょんべんこいて、チャポンと池の中へ飛び込んだてんがな。
ほうしてまた一匹が、ギャクンクリリンとないて、ショとしょんべんこいて、チャッポンと池の中へとびこんだてんがな。
ほうしてまた一匹が……(どこまではなしてもきりがない)
【出典】『とんとひとつあったてんがな』水沢謙一著 見附市 石田ヨミさんの語り
※高橋実著『越後山襞の語りと方言』雑草出版から著者了承のもと転載しました。
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