仁王|新潟県の人気昔話の解説

新潟県に伝わる代表的な昔話を取り上げ説明します。解説は長岡民話の会顧問、高橋実さんです。最初に昔話の解説、その後に元話を掲載します。

解 説

 力比べとよばれる民話、ほら吹き自慢の大話で、人を笑わせる。『日本昔話集成』では、「仁王と賀王」となっている。この日本人の仁王に対して外国人は「賀王」としているが、下條さんの話は、「カラの国のドッコイショ」と言う名前でよんでいる。八幡様のくれたお守りの鉄のやすりで鎖を切って逃げ切ることができたという、八幡様のご利益を強調する話となっている。下條さんの話には他に「仁王様(二)」とする話も載っていて、ここでは「仁王」と「賀王」の名前が出てくる。賀王がカラの国から力比べにやってきて、仁王の留守に仁王の妻が鉄の棒をちぎってダンゴといって出すと、賀王がそれをメリメリと食ってしまう。仁王門には、口をあけた阿像と口を閉じた吽像が二体あるが、ダンゴを食ったのが阿像で、ダンゴを食わなかったのが吽像となったというのである。

 大力持ちの話は、垢から生まれた「力太郎」が百貫の鉄棒を振り回すなど異常出生譚と結びついている民話もある。

 

仁王

あったてんがの。

あるどこに、仁王さまがあらして、ほうして、「日本中で、おれがいっち力もちだ。おれになるものはあるまい」とおもていらしたてんがの。

ほうして、ある日、山の上へあがって、「おれと力くらべしるもんがあったら、出てこい」と、でっこい声で、なって(1)いらしたてんがの。

ほうしたれば、うしろの方で、「お前と力くらべをしるもんは、カラの国へいがんけやないがら。カラの国の山んなかにたんだ一人いるすけ、それをさがしていげ」と、そういう声がしるんだんが、うしろを見たれば、八幡様がいらしたてんがの。

ほうして、八幡様は、「カラの国へわたっていって、もしや、お前のなんぎこと(2)があったら、お守りにせ」というて、なにか、お守りをくらしたてんがの。

ほうして、仁王さまは、それをもろて、カラの国へいって、「どこへいったら、おれのあいてになるのがいるだろう」と、あっちこっち、聞きながら、探してあいていらしたてんがの。

ほうしたら、ある日、山んなかへはいっていがしたれば、あっちの方に、明りがめえるんだんが、そこを訪ねていったれば、年寄りの婆さがいて、「婆さま、婆さま、おれは、力くらべにきたがらが、このへんに力持ちの人はいねえろうか」「いや、そら、おらこのせがれだ。せがれもなかなか力持ちだ。今、出かけていねえすけ、まあ、あがって夕飯でもくて、待っていてくんなせ」「そいじゃ、まあ、よしてもろおうか」ほうして、うちのなかへ、はいらしたてんがの。

ほうしると、その婆さが、米の五俵もはいるような、でっこい大釜を出して、米を四俵あけたてんがの。

ほうして、ニオ(3)のようなワリキ(4)をくいて、ドンドン火をたいて、マンマ煮ているてんがの。

「婆さま、婆さま、そんげに、いっペコメたいて、だれが、そのマンマを食うがら」「おらこは、じさとせがれとおれの三人で、いつもコメ一俵ずつ食うがで、こんにゃは、お前さんがこらしたんだんが、四俵たいたがら」ほうしたれば、仁王さまは、「こんげのメシをくうがらんが、そのせがれは、まあ、なじ(5)の力もちだかわからん。これや、まあ、こんげなどこにいねえで、逃げていこう」とおもて、便所へいぐふりをして、逃げ出してしもわしたてんがの。

ほうして、舟に乗って、海へ出たてんがの。

ほうしると、そのあとへ、婆さのせがれが、うちへ帰ってきて、「今日はまた、どうして、こんげに、いっぺ、マンマたいたい。」「今日は、日本の国から、お前と力くらべに来た人があって、その人にくわせようとおもて、マンマをたいたがら。その人は、いま、便所へはいらした」。

ほうして、便所のなかを見るども、いねえんだんが、「いや、こら、逃げたがら。そいじゃ、力くらべをしてみたいんだ」と、おっかけていったてんがの。

ほうして、せがれは、かねの鎖のようなものを、グーンと投げたてんがの。

ほうしたれば、仁王さまの乗っている舟の碇にはさまって、また、グングンと、カラの国へひきもどされるてんがの。

「これや、おおごった」とおもて、仁王さまは、八幡様からもろたお守りを出して見たれば、鉄のヤスリだったてんがの。

ほうして、そのヤスリで、そのくさりを切って、逃げてきたてんがの。

ほうして、そのカラの国の力持ちは、ドッコイという人んがらてんがの。

鉄の鎖が切れたれば、「ドッコイショ」というて、尻餅をつかしたてんがの。

それで、カラの国で、なにか重たいものをぶたりもったりするときは、「ニオウ」というし、日本の国では、なにか重たいものをもつときには、「ドッコイショ」というようになったがらてんがの。

いきがポーンとさけた。

【出典】『赤い聞耳ずきん』水沢謙一著 昭和四十四年 下條登美さんの語りより
【注】1.なって(叫んで) 2.なんぎこと(困ったこと) 3.ニオ(円錐形の塚、藁ニオ、ボヨニオなどがある) 4.ワリキ(薪) 5.なじ(どのような)

※高橋実著『越後山襞の語りと方言』雑草出版から著者了承のもと転載しました。

 

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