和尚と小僧|新潟県の人気昔話の解説

新潟県に伝わる代表的な昔話を取り上げ説明します。解説は長岡民話の会顧問、高橋実さんです。最初に昔話の解説、その後に元話を掲載します。

解 説

 「和尚と小僧譚」として全国的によく知られている。日頃虐げられたものが、機転によって権力者に反撃する喜劇の一種である。

 この話は狂言「付子(ぶす)」にもあり、古い時代から語られてきた。「クワンクワン」という擬態語を「食わん」という語に結びつけ、「クタクタ」という語を「食った食った」という語に結びつける言葉遊びには驚く。日本の和歌には掛詞というものがあり、一語で二義を含ませる伝統が古い時代からあった。

 この種の話には、この他にも、和尚一人で餅を食べ、甘酒をのんでいるのを小僧たちが見て、なんとかその相伴にありつこうと名前を変え、餅や甘酒にありつく、「ふうふうとんとんといいかん」等の話がある。また和尚がこっそり飴をなめているのを小僧には毒の飴でなめれば死ぬと教える。和尚の留守に小僧はその飴をなめ、和尚の大事な硯をわる。和尚が帰ってきた時の言い訳に「硯をわってしまったので、死んでお詫びをしようと毒の飴をなめたが死ねなかった」という。和尚はそれに反論ができず小僧にやられてしまう話などがある。

 民話は、いつも虐げられている人物が機転で相手に反撃するものが多い。この他にも、姑にいじめられた嫁、旦那にいじめられている使用人などの反撃する話が多い。

 中世以後、仏教の庶民化によって、小規模の寺が小さな村々にも建立されるようになり、寺の和尚は、村人の相談相手にもなり、子供達に読み書きを教える寺子屋ともなった。

 一方、そのお寺の大衆化が和尚の質の低下をもたらした。わずかな名田しか持たぬ小寺の僧は、生計のために、世俗化したものが多かった。

 ハナさんの昔話は他に「しゅうと婆さと嫁」があり、二人が彼岸をヒガーンか、ヒガンどちらが正しいか和尚に決着をつけてもらうことになり、ふたりとも自分の説が正しいと肩をもってもらいたいと別々に和尚に袖の下を持って行く。和尚は、どちらも正しい。春の彼岸は日が長いので「ヒガーン」といい、秋の彼岸は日が短いので「ヒガン」だと教えた。和尚は二人から袖の下をもらい、丸儲けしたというのである。これなど、この時代の和尚の様子が浮き彫りされている。

 日本昔話事典には、この話を「優位のものが劣位のものにやりこめられると言う構造、やりこめる側のぬけめなさ、やりこめられる側の愚かしさ、やり込め方の笑止さがこの笑話の基本」という。優位なものが、劣位のものを押さえ込む民話だったらとっくに消えてしまっているだろう。

 

和尚と小僧

あったてんがの。

ある寺に和尚様と小僧がいたと。

和尚様が檀家へお経を読みに行こうと思っているどこへ、隣のばさがおはぎを持ってきたてんがの。

和尚様は、お経を読みにいってきてから食おうと思うて、戸棚の中へしもうて置いたと。

小僧に「庭掃いたり、仏檀掃除しておけ」とようて、和尚様は出ていがした(1)と。

小僧は、戸棚からおはぎを出して、あんこを金仏様の口のめぐら(2)に塗り付けて、そのおはぎをてめえ一人でみんな食うてしもうたと。

そこへ和尚様が帰ってきたと。

「小僧小僧、庭掃いたか、仏檀掃除したか」とようんだんが、小僧は「庭も掃いたし、仏檀も掃除しました」といったと。

和尚様は「そうかそうか」とようて、おはぎを食おうとして、戸棚を開けてみると、なんでもないてが。

和尚様は怒って「小僧、おまえだな。戸棚のおはぎを食うたのは」とようたと。

小僧は「おはぎなんか、なんにも食わん」とようろも、和尚様は「ほかにだれもいねえがんに、おまえが食わんでだれが食う(3)」とようたと。

小僧が「そういえば、さっき本堂で、ミシリミシリと音がしていたけが、金仏様が食うたかもしれん」とようんだんが、本堂にいってみると、金仏様の口のめぐらに、あんこがついていたと。

小僧が「ほら、やっぱし、金仏様が食わしたのだ」とようんだんが、和尚様が「食うたか、食わんか、はたいてみれ」とようんだんが、小僧がカネの棒ではたいてみたら、クワンクワンと音がしるてんがの。

和尚様が「小僧、そら見れ。クワンクワンとようていなさる」とようと、小憎が金仏様を池の中に投げ込んだら、クタクタと水の中へもぐったと。

小僧がようたと。

「そらみなせえ。金仏様がクタクタといわしたろ」とようたてがの。

いきがさけた。

【出典】越路町双書『ムジナととっつぁ―高橋ハナ昔話集』 越路町
【注】1.いがした(いらっしゃった。「来らした」「居さした」のように「し」をいれて尊敬表現となる) 2.めぐら(まわり) 3.おまえが食わんでだれが食う(反語表現。お前が食わないでだれが食おう.他の者が食うはずがない)反語は強い否定表現で、「お前がしないで誰がする。するはずがないだろう」という使い方をする)

※高橋実著『越後山襞の語りと方言』雑草出版から著者了承のもと転載しました。

 

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