新潟県見附市の富川蝶子さんの昔話。その端正な語り口調を知ると、文字が生き生きと語り始めます。ぜひ一度CDでむかしばなしをお聴きください。
鶯の一文銭
あったてんがの。むかしあるどこね、貧乏だども正直のかっかとあんにゃがあったてんがの。
秋になって、あんにゃ旅に稼ぎに行ぐがんだとテクテクあ足(え)んで行くこんだすけ道中で日がくれてしもうたと。
「はて、こら困ったねか。」とおもて、そこらを見たれば向こうの方にチカンチカンとあかしがめえたってがの。そのあかしを目がけて行って見たれば、ばかげたいいうちがあったと。そいであんにゃは
「ごめんなさい。ごめんなさい。」と声をかけたら、若いいとしげな女の人が出てこられったってんがの。
「おら、山で日が暮れてしもうたが、今夜一とばん泊めてくらっしゃい。」と願うたれば
「おらちはおれ一人だが、なじょも泊ってくらっしゃい。」と言うてほうして、ごっつおをしてくれたってが。つぐの日になったら女の人が
「おら町へ買い物にちょっこら行ってくるすけ、おめえさん、るすいしていてくんねかえ。うちの裏に倉が七つあるがその倉を見てもいいども、いっちしましの七つめの倉だけは見てくれんなのし。」と、そう言うて出かけて行ったっての。
あんにゃはるすいしていたども倉のことを思い出してうちの裏へ行って見たってがやっぱり七つあったってんがの。
一つ目は米倉、二つ目は味噌醤油倉、三つ目はたんす、四つ目は酒倉、五つ目は野菜倉、六つ目は果物倉、だっけと見るなという七つ目の倉は見たくもねえし、決して見なかったと。
そのうちに女がスタスタとうちへ帰ってきたとの。
「いや留守番してもろてありがたかった。」あんにゃは、「はて、おらも旅かせぎに出かけるいの。泊めてもろてありがたかった。」というたれば、
「おめえさん、正直で見るなと言うた倉も見んかったすけ、この宝物をやろう。ウグイスの一文銭ってもんだ。」というて宝もんをくれらしたとの。
あんにゃは旅へ行ぐのをやめてうちへもどったってが。そのウグイスの一文銭がばっかいい値で売れてらくらく暮せるようになったてんがの。
ほうしたら、隣のなまけものの男がその話を聞いて旅に出かけたっての。ほうしてその山へばんがた行って女のうちをたずねて
「今夜ひと晩泊めてくらっしゃい。」とたのんで、やっぱしごっつおをしてもろうたっての。ほうして、つぐの日になったればその女がまた留守をたのんで町へ行くがだと。
「七つ目の倉だけは見るな。」と言うて言ったってがんに、そのなまけもんの男は六つ目の倉を見てから七つ目の倉もあけて見たっての。ほうしたれば梅の花がきれいに咲いて鴬が止まっていたっけが、戸のすき間からその鴬がパーと外へたってしもうたってが。
そんもうちも倉もみんな無くなって男は、かやかぶつの上にショボンとしていたっけってんがの。
いちごポーンとさけた。
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