身上があがる
あったてんがの。
むかしあるどこに貧乏だども正直なジサマとバサマがあったと。
のら犬が来たり、のら猫が来たりすれば残りもんをくれたり、子供がこいば「まんま食って行けや」なんか言うて情深いいいジサマバサマであったての。
ある冬の日、ボッサンボッサンと雪が降って寒(さ)ぶい夜(よ)さるジサマが
「バサ、バサ、今夜はばかげに寒ぶい晩だんがヘェ寝ようかなぃ。」そう言って火どこを休めていたっての。バサマが「そうだの。それじゃ、玄関の戸じまりしてくるこての。」と言うて立ったっての。
丁度そんどき、どっかでチリンチリーンと鈴の音がするってんがない。
「ジサマ、ジサマ、何だか鈴の音が聞こえるようだねかの。」ジサマも耳を澄ましていたらやっぱり鈴のねだったと。「こんげの雪の降る夜さる誰かどっかの六部でもあろうかない。泊るどこがあるがだろうか。」そういわれるんだんがバサマが
「ほんにの。道に迷っていられるがだかもしんねんが、玄関の灯(あか)しまだつけておこうかの。おらこのあかし見つけてこられるかもわからんがんに。」と言うたと。
ジサマも「そうだない。そうせばもうちょっと起きていよかない。」とたった今、休めた火どこをまたひろげてあたっていらしたと。ちっとばかめえたら
「今晩は、こんばんは。」と誰かが来たっての。バサマが急いで出てみたら雪まぶせになった旅の六部だったと。ほして
「いやぁ、へぇ道に迷うてこの雪だ。たった一つついていた灯しを頼りに、ここへ来たが今夜一晩泊めてくんねかの。」と言われるんだんが、バサマが
「まあまあ、なじょんか寒ぶかったろうがの。さあさあ早う上って火んなかへあたってくんなさい。」と言うたと。六部は喜んで
「ああー助かった。助かった。」と入ってきて、あたっていたっての。ジサマが
「寒かったろうがの。おらとこは何もねえども焚きもんだけはいっぺことあるがんだいの。」と言うとボーンボーンと火をくべて、あたらしたって。バサマがそのこまに甘酒をわかして
「さあさあ、寒ぶい時は甘酒がいっちいい。いっぱいこと飲んであったまってくんなさい。」六部は喜んで甘酒飲んでいたと。バサマはそのこまにお客布団を座敷にしいてくいたっての。六部は
「ありがたかった。休ましてもろうかの。だどもオラいつでも寝る前に水を一杯飲むくせがあっての。」そう言うて流しの井戸ばたへ行ったっけが、どうあいまったこんだやらガラガラバッシャーンとつるべと一緒に井戸へ落ちてしもうたと。そしたらバサマがたまげて
「ジサマ、ジサマ、大ごとだいの。六部どんが井戸へ落ちらしたげだいの。早よ来てくんなさい。」とでっこい声で呼ばるんだんが、ジサマもたまげてとんで行ったと。ほうして
「六部どん、六部どん、つるべの綱にしっかりつかまっていてくらっしゃい。オイラが引っ張り上げるすけ。」と言うたってんがない。
「オーイ!俺がない。しんしょうがや、と気合いをかけるすけん、おまえ方が、あがるがやあ、と言うて引張ってくらっしゃい。」と言うたと思ったらでっこい声で「しんしょがや」と井戸の中から聞こえてきたと。
ジサマとバサマもそれに負けないでっこい声で「あがるがや」と何べんも言うて六部どんは、ぬれねずみになって上ってきたってや。バサマが
「ほんにほんに、水が飲みてっけや、おれが汲んでくるがんに、おおめに合ったの。早よ着物着替えてくんなさい。」と言うて、ふんどしから下着からジサマのとっておきのを出して着かえらして、ジサマは又火んなかへ火をボーンボーンと焚いてあたらしたと。
バサマは濡れた着物(きもん)をしっかんかんとしぼって、ひんなかのそばの、かけさへかけて
「ねって起きればかわくれの。」
「いやいや申しゃけなかったの。大騒ぎさせてしもうたのし。」
と言うて六部は座敷の客布団に寝たってんがの。
ジサマとバサマは着もんをひっくり返したりひっぱったりしてかわかしてから、火どこを休めて寝たと。
ほうして次ぐの朝、バサマは早よ起きて六部に食わせろおもて、まんま焚いたりおつゆを煮たり、取っておきの塩鱒を焼いたりして待っているども六部はいって起きてこんてんがの。
「ジサマ、ジサマ、おつゆが冷めないうちにまんま食ってもろうように起こしてこうかの。」と起こしに行ってみたれば六部の影も形も見えないがだと。
「ジサマ、六部どんがいらんねいの。何処へ行かいたろうの。」
「そうか。外へ出らいた様子もないどもない。」と二人して布団まくってみたら、そん中へお金がどっさりとあったってんがの。その金で二人は一生しあわせに暮したってこんだいの。
いちごポーンとさかえ申した。
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