新潟県見附市の富川蝶子さんの昔話。その端正な語り口調を知ると、文字が生き生きと語り始めます。ぜひ一度CDでむかしばなしをお聴きください。
ミノにぼたもち
あったってんがの。
あるどこにばっかげにけちんぼのジサ、バサがあったと。
ある冬の日、朝げっから雪がボサボサ降ってばっかさぶい日、ジサひんなたでトコトコ火焚いてあたっていたっけが
「バサ、バサ、おらこんげさあぶい日にや、ぼたもちでも食いてがない。」と言いはねたと。
「やだな、おらこのジサマっては、こんげさぁぶい日にかぎってめんどくせいことを言い出して」と思ったども
「そうだのし。そうせば今夜ぼたもちにしるこてし。おまえ火焚きしてくらっしゃい。小豆煮えて、あんここしょんばね。」と言って小豆鍋しかけたってや。
ほうして、てまえももち米といだり焚いたり、ボトボトしてやっと晩方になったらうまげのぼたもちがいっぺことできたと。丁度そんどき、
「ゴメンナンショ、ゴメンナンショ。」というて誰か来たってんがない。
バサ玄関へでてみたればザトンボのメット連れが、マント着てさぶげにして立っていたっけが、カカが
「今日はこの先の村まで行って泊るつもりのがんだども、うちの人が足が痛くてあいばんねといわいるすけ、あんましようしだども一晩泊めてもろんねろかの。」と言うってんがの。
バサ、(やだねかなぁ、今晩はぼたもちだってがんに、ザトンボなんか泊めればぼたもち食わせんばん、あったらもんな)と思たども、まあジサにかずけておこうと思うて
「そうかい、そらあまあ気のどくなこんだども、おらこのジサマは、ちっとばかめんどくせい人だすけ待ってくらっしゃい。」そういうて火のはたへひっ返してきて「ジサマ、今、ザトンボのメット連れが泊めてくれというているが、なじにしたらいかろうのし。」
「そうかあ、そらまあ可哀げらな。泊めてくんねばんこてや。だどもない、バサや、ぼたもちなんて食わせんな。おかいでも煮えて食わせれ。」
「アイアイ、そうしるこてし」とバサまた玄関へ行って
「今、ジサマに聞いてきたら、なじょも泊れってし、だーどものし、おらこは今夜はなんのごっつおものうて、おかへだがのし。」ほうしたらザトンボのトトが
「おかゆでも、おぞうせでも、何でもいいがんだいの。ただ泊めてさえこらえばありがたいがだ。」と喜んで入ってきて火のはたであたっていたってや。
バサ、そのこまに朝餉の残りまんまで、おかへ煮えてくいて、てまえがたはぼたもち食てザトンボにゃおかへ食わしていたと。
ザトンボのカカの方は片っぺたの目がちっとばか見えるがんだと。そいで
「なんでや、何のごっつおもないなんか言うて、てまへ方はぼたもち食て、おいらにゃおかへ食わしているがんだな」と思うたども、まあ黙っていたと。
ほして夕飯がおいたらジサが「今日はばかげにさぶいすけ、こんげ夜さるせぶろへなんか入ってふわふわして風邪でも引くとのーかと悪いすけせーぶろは休みだれ。おかへ食て腹があったまったんが、おらヘェ寝るが、おまえ方はニヤへ寝たかえ。」と言うておくの寝間へ行ったと。
ほうしてバサがニヤへせんべい布団出して敷いてくれたんだんが布団つっかぶってねたと。
ひとねいりしたらカカが、キツンキツンとトトを引っぱって起こして
「トト、トト、あののし、ここのうちは今夜ぼたもちのがだれ。何のごっつおもねぇなんか言うて、てまえ方はぼたもち食ておいらにおかへ食わしていたがだれ。」
「そうか、そういがらか。ほうしゃンナ流しへ行ってみれ。まだ残っているかもしんねど。」と言われるんだんがカカ手さぐりで、そろんそろんと流しへ行って見たれば戸棚の中にまだぼたもちゃいっぺこと残っているってや。
そうして戻ろうとしたら何でやら足にひやっこいもんがさわったと。何だろうと思ってしゃがんでみたれば、甘酒がめだってんがの。ふたを取ってみたらプンプンとうまい匂いがしてまだそこったまへ残っているってんがの。
カカはまた、そろんそろんと寝床へ戻ってきて
「トト、トト、おまえもきたがへし。ぼたもちゃまだいっぺいあるし、甘酒があるいし。」そういうて、トトの手引っぱってそこらにあったミノをたがえて流しへ行ったと。
そうしてミノを広げてぼたもちごっそりおんまけて上手につつんでしっかんかんとしばって、甘酒をしゃくしでこうしてすくうては汁だけ飲んでカスはかめにぶっつけて二人してかわりばんこにみんな飲んでしもうて、又、そろんそろんと寝床へ戻って、てまえ方が持って歩く大風呂敷を広げてミノに包んだぼたもちをその風呂敷に包んで枕元へ置いて寝たってや。
ほうしたらそんもコケコッコーと一番どりがトキつくったと。こんだトトがキツンキツンとカカを引っぱって
「カカや今日は早発ちしょうねか。」「あいあい。」と二人してコソコソと起きて支度してぼたもちの風呂敷をしっかんかんと負(ぶ)てその上からマント着て玄かでわらんじはいて足ごしらいしていたと。丁度そんどきバサしょんべんに起きてきたって
「オーココおまえ方へぇ発たれるかへ。さっきな一番鳥がときつくったばっかで、まだまっくらだで。」と言うたって。ザトンボのカカが
「ハァおかげでうちの人の足の痛いがもようなったし、おいらみとのめくらってな一年中まっくらすまで夜でも昼でも同じこんだいの。」と言うたと。
「そういえばそうだのし。そいだがお前方、何処の生れでいられたへ。」とバサが聞いたと。そうしたらトトが
「ハァおいら生れはミノにぼたもちつつみの郡、かめにカスザケぶっつけの村だいの」というたてんがない。
「オーココあんま聞いたことのない珍しい村だのし。まあ気えつけて発たっしゃい。」
そいでザトンボは出て行ったしバサしょんべんしてもうひとねいりしようやと寝床へ行ったと。ジサが目覚まして
「ザトンボが早発ちしたげだない。まだ暗いろが。」
「ああ、あいらみとの盲(めくら)ってな、一年中夜でも昼でもまっくらすまでいくら早いたってなじでもないがんだと。」
「そうか。そらまたおいらみとの目あきとちごうて便利なもんだない。そいだが何処の生れだろうない。」
「だすけし、おれが聞いてみたこてし。生れはミノにぼたもちつつみの郡カメにカスザケぶっつけの村だと言うたようだがのし。」
「そいうかあんま聞えたことのない珍しい村だない。」とジサもバサも又、布団にもぐり込んだと。
ちっとばかめいたらジサもっくと起きて「バサバサ流しへ行って見れ。ぼたもち盗まいたかしんねど。あっ甘酒もやらいたかもしんね。」と二人してもざきたって流しへとんで行って見たればなんのじ、ぼたもちゃ一つと残っていない。甘酒がめ見たれば汁をんーな飲んでカスはかめにぶっつけてあったと。
ジサとバサそこへヘタヘタヘターと尻もちついてしもうたってんがの。
いちごポーンとさけた。
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