酒飲みの八郎
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
とんと昔があったげろ。
八郎という子があって、母親と二人で暮していたと。
八郎は、八百屋して、母親をこうて(養って)いたと。
なじょんかごうぎな酒飲みで、そこらへよっちゃ酒飲んであるいていたと。
酒屋へいぐと、人が
「八郎、八郎、今日は、おがおごるが、酒がいいか、焼酎がいいか」
「焼酎の方がいい」
というて、三升も飲むがっだと。
ほうして、ろくに商売もしねで、家へ来たと。
「かっか、今日は、焼酎いっぺえごっつおになって来たすけ、おれの起きるまで、いっか(何日)たっても起こさんでくんねか」
というて寝たと。かっかは
「なじょも、なじょも」
というて、そのままかもんでおいたと。
そのうち三日たっても起きねんだんが、いってみたら、しゃっこいがだと。
かっかは、
「死んだふら」
というて、親類におとして(告げて)葬式だしたと。
棺の中へ入れて、べとの中へ埋めたと。
そのうちに、八郎は、べとの中で目が覚めて、手足のばそうと思うたうも、つっかえるんだんが、
「これは俺が死んだと思うて、埋めたがだな」
と思うて、棺のふたへっこしてべと崩してやっと外へ出たと。
外は真っ暗で、なんもめえなかったろも、むこうの方へちいとあかりがしるんだんが、そこへいってみたと。
すきまからのぞいてみたら、ばくちうちがよって、ばくちしていたと。
そこへ八郎が裸で入っていったんだんが、いんながたまげて、銭(ぜん)置いたまんまにげていったと。
八郎は、そこにあった座布団一枚と銭いんなもって外へ出たと。
そのうちに、うすら明りになってきたんだんが、座布団一枚着て、家へいったと。
家じゃまだ寝ねえでお通夜していたと。そこへ
「かっか、かっか来たぜ」
というて、座布団一つ背中につけて、裸で入って来たんだんが、家の中にいた人がごうぎたまげたと。かっかが、
「どうしてきたや」
と聞くと、八郎は、
「目が覚めたら、棺の中だったんだんが、ふたへっごして、べと崩して、たよりたよりしてやっときた」
というと、いんなもわかって
「よかった、よかった」
というて食いもんか(クヮ)したと。
銭いっぺい持って来たんだんが、かっかは
「酒好きの八郎だすけ、酒店でもだせやいいこて」
というて八郎が生き返ったてがんで、「身返り屋」という看板の店を出して、なじょんか繁盛したと。
これでいきがすぽーんときれた。
諏訪井 笹崎サク
……もっと読んでみたい昔話