兄とおじの鉄砲ぶち
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
とんと昔があったげろ。
兄とおじ(弟)の鉄砲ぶちがいたと。
ある日、兄とおじが、二人して鉄砲ぶちにいって、兄は、こっちの沢へ入る。おじは、むこうの沢へはいるして、別々の沢へ入っていったと。
兄が沢へ入っていぐと、沢の奥に、きれいな娘が、苧績(おう)み桶を前にして、苧を績んでいるがだと。
兄は
「こっげの山奥へ娘が苧なんか績んでいるはずがねえが、これは、きっと魔物に違いない」
と思うて、娘をねろうて、鉄砲を一発ぶったと。
ほうしたら娘がニヤッと笑うて
「いたでも、かいでもねえ。もう一ツぶってくれ。いたでもかいでもねえ。もう一ツぶってくれ」
というたと。
またぶち、またぶちして、そのうちにたまが絶えてしもうたと。
ほうしたら娘がそばへよって、ごうぎなかっこうして、よく見たら化けさるだったと。
その化けさるは、兄の鉄砲ぶちを食ってしもうたと。
晩方(ばんがた)になっても、兄が来ねんだんがおじは、
「これはおかしい」
と思うて、次の朝げ、兄のいった沢へ入ってみたと。
ほうしたら、きれいな娘が苧を績んでいるがだと。おじは、
「兄はこんにやられたがだな」
と思うて、たまつめてぶったと。
ほうしたら、その娘が、
「おほほ、いたでもかいでもねえ。もう一ツぶってくれ」
というたと。
おじは魔物が鉄砲ぶっても死まねんだんが、
「はて、これはどうしたもんだろう」
と考えたと。
ほうしたら、魔物をみたら、その品物をぶてという先祖からのいい伝えを思い出したと。
「これだな」
と思うて、おじは、その娘の持っている苧績み桶めがけてぶったと。
ほうしたら、キーキーキーとでっけえ音がして娘の姿は消えたと。
おじがそこまでいってみたら、血垂(た)らしたあとが続いていたと。
それに伝うていってみたら、ごうぎのさるが死んでいたと。
ほうして、そのそばに、兄の骨ばっかになったがんが、ころがっていたと。
これでいきがすぼーんとさけた。
楢沢 五十嵐石三
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