身代り本尊
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
昔、若栃(わかどち)(小千谷市)のお寺に、夫婦が作男として、働いていたと。
ほうして、そのおんなご(女中)と寺の方丈様が仲よくなった。
こんだ法末(ほっせ)(小国町法末)の村に、槍使いの名人があったそうな。
そっで、方丈様は槍の名人にたのんで、
「おらこの寺で働いている作男を殺してくれれや、銭くれる」
というたと。その槍使いは、
「よしよし、おが殺してやる」
と承知したそうな。
槍使いは、暗闇で、男を突き殺して、方丈様に
「殺したすけに、銭下さい」
というた。
方丈様は、
「大丈夫だか」
と聞いて、金くれて返してやったそうな。
ほうしたてがんに、その朝げ、薄暗いうちに、殺されたと思うた作男が竹ぼうきで掃除していた。
方丈様はたまげて、
「たしかに殺したと思うたがんが、いつもより早起きして掃除しているがんはふしぎだ」
というて、おんなごと二人で、本尊様にお詣りした。
ほうしたてや、その本尊様が、首かしげて血を流していた。
そのおんなごは、それを見て、
「こらあ、とんでもねえことだ」
と裏口からとんで出て、川へとび込んで、死んでしもうたと。
こんだ方丈様もたまげて、
「血ながして、首かしげている本尊様なんかこっげのどこへ飾っておかんね」
と新しい本尊様買うて来たと。
その古しい本尊様を古しい行李に入れて縄でしばって「この行李あけると眼がつぶれる」と書いて、新しい本尊様の前にぶらさげておいた。
それからまあ、何年もたって、法末の村へ大工があって、お寺の授戒についた。
人様が来なすって、
「明日の晩、おけちみやく(血脈・法門伝授のお札)やるすけ」
というて、その晩、大工の耳にねこの鳴き声がした。
大工は
「今日は、耳に悪いねこの鳴き声がしたすけ、こんにゃは、おれが張った幕の外へだれも出ちゃならんぞ」
といんなにきかしたと。
そばにいた婆さが、
「法末へ泊りにいってくる」
というて、幕の外へ出たてんがのう。
出ると、ギギャーギャッとねこの鳴き声がして、婆さまの叫び声がした。
そこにいた衆が、外へ出たらも、その婆さは、どっかへつれていがれてしもうた。
その婆さは、小栗山(こぐりやま)(小国町小栗山)のおやじのつぼやまに落とされていたと。
それを家の人がめっけて、
「こっげのひとが、おらにゃに落っていたが、人にめっけられっとおごとだ」
と思うて、人に隠して崩沢(くずれさわ)持っていって、坐らしてきたと。
縁起が悪いろも、烏がめっけて、ギャア、ギャアとどうろたかってきたと。
ある人が、何事があるかと行ってみたら、烏が人の目玉掘り出して見らんねようになっていたと。
法坂 樋ロソメ
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