ひでると小風と村雨
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
昔があったと。
ある山ん中へ家が一けんあって、あんさが一人でくらしていたと。
ある晩、若い娘が一人たずねてきて、
「わるいろも、こんや一晩とめてくんねか」
とあんさにたのんだと。
「おら一人で、家ん中もきったねろも、そっでもいいけや泊まったいいよ」
そういうて泊めてやったと。
娘は喜んでとめてもろうて、朝げになると、
「おれ、ここの嫁にしてもろうんねろか」
というたと。
あんさはきれいな娘らんなんが喜んで、
「なっじょも(どうぞ)おれの嫁んなってくれ」
そういうて二人は、夫婦になったと。
仲よくくらしているうちに、あっつい夏のさかりに男の子が生まれたと。
あんさは喜んで「ひでる」という名前をつけたと。
そのつぐの年になると、こっだ、そよそよと風の吹く日に、また男っ子が生まれたと。
あんさ喜んで、こっだ「小風」という名前をつけたと。
またつぐの年、こっだ、しゃっこい(冷たい)雨がふる日にまた男っ子が生まれたと。
そこであんさは「村雨」という名前にしたと。
ひでると小風と村雨と三人の子どもを、夫婦二人で大事に大事に育てたと。
ある日、昼寝(ひるね)ろきに子どもらが三人遊びから帰ってきて、かっか(母)の昼寝している部屋をのぞいてみたら、でっけいきつねが一匹寝てたったと。
子どもらあたまげてでっけい声だしたんなんが、きつねもたまげてとびおきたうも、そんときゃちゃんとかっかの姿になっていたったと。そうしてかっかは
「つぁつぁ(父)、つぁつぁ、おらとうとうこどもに正体みられてしもうたんなんが、ここのいえにゃいらんねすけ、山へ帰ろうと思うすけ、ひまくんねか」
とたのんだと。
あんさもしかたがねんだんが、ゆるしたと。
かっかは後ろ見い見い山へ帰っていったと。ひでると小風は
「かっかがいねー、かっかがいねー」
と泣くし、村雨は腹が減ってきて、コアーコアーと泣くんなんが、あんさも困ってしもうて
「じゃこれから、かっか(母)んろこへつれていってやるこてや」
そういうて、ひでるをあいばせ(歩かせ)、小風の手をひいて背中へ村雨をぶて(背負って)子守唄をうとうていったと。前に村雨が乳のましてもろうたろこへいってみると
「ひでるや小風や村雨や。ここらにかっかがいたならばでてきて乳をやってくれ。ソラソラソソラソラや」
とあやしながら山奥へはいっていったと。そうしると、山奥の方から
「クワーイ、クワーイ」
ときつねの鳴き声がして一匹のでっこいきつねがでてきたと。ひでると小風は
「おっかねー、おっかねー」
と泣いたと。あんさは
「かっかあ、その姿じゃ、こどもがおっかながるすけもとの姿になってくれや」
と頼(たの)んだと。
そうしるときつねはこくんとうなずいて、くるっと一回まあると、きれいなあねさになって
「つぁつぁ、子どもをつれてきてくれたかい、さあさあ村雨や、こっちへきて、かっかあの乳いっぺいのんでくれや」
そういて、乳いっぺいのましてくれたんなんが、あんさは子どもをつれて家へ帰ったと。
あるろき三人の子どもたちは、
「かっかあはどうしているろう」
と心配になって、つぁつぁと四人で山おくへたずねていったと。
前に村雨が乳のましてもろうたろこへいってみると、でっけいきつねが一匹死んでいたったと。
あんさはその死骸にとりすがって
「かっかあ、よしてくった(ありがとう)、お前のおかげで、みてくれ、三人ともこっげりっぱに育ったいや」
とおーい、おーいと泣いたと。
それから四人でかっかあの死骸を家へ運んできて、りっぱな葬礼をだしてやったと。
それからは子ども三人が力をあわせて働いたんなんが、その家はりっぱなくらしができるようになったと。
いちが、スボーンとさけた。
二本柳 田中秀吉
……もっと読んでみたい昔話