きつねと馬方
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
とんと昔があったげろ。
毎日峠を越える馬方があったと。
ある日、峠を越えようとしているどこへ、えらいげな侍が出てきて、
「これこれ、馬方どこへ行ぐ」
と聞くんだんが
「柏崎のてんやら堂までいきますが」
と答えるとお侍が、
「どうだ、おれをひとつのせないか」
とたのむんだんが、仕方なしに馬に乗したと。
柏崎の近くへ来たんだんが、
「お侍様、柏崎がすぐでござんす」
というて、後ひょいと見たら、いつのこまにか侍がいねえがだと。
「金をもろうと思うたてがんに」
と、馬方はごうぎごうにやしたと。
次の日も、また峠へかかると、きんなの侍が出てきて、
「これこれ、馬方おれをひとつのせないか」
というんだんが
「この侍は、きっと普通の人間じゃねいざ」
と思って
「お侍様、失礼でござんすが、この馬は、行儀が悪くて、とび出すこともありますんだんが、振り落さんねえように縛ってやります」
というて、侍が
「いい、いい」
というがんもきかんで、むりやり馬の鞍にしっかりしばりつけてしもうたと。
柏崎のてんやら堂へついて馬方が
「さあ、どうぞお下りくだせい」
というろも、侍は下りらんねんだんが、ごちごちしているうちに、きつねになってしもうたと。
「こいつ、よくも人をだましやがったな」
というて、馬方は、きつねを殺してしもうたと。
ほうして、村へ来てから、
「きつね殺したすけ、見いきてくれや」
と触れてあいたと。
村中の衆集めて、きつねの肉煮て、馬方が塩見(しおみ)してみたら、ばかげにうまかったんだんが
「これは人に食せらんね」
と思うて
「くゎいくゎい、くゎいくゎい」
ときつねのまねをしたと。
ほうしたら、村の衆は、
「あっげの肉食おんなら、それこそきつねになってしもう」
というて、家へ逃げて帰ったと。
あとから、かかが、
「おめえ、ほんにきつねになってしもうたがんかい」
と聞くと、馬方は、
「ばかこけ、こっげのうめえ肉を他人(ひと)にくっだんねすけ、きつねの真似したがだこてや」
というて、二人してその肉を食ったてや。
これでいきがすぽーんときれた。
楢沢 五十嵐石三
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