きつねとあんさ
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
とんと昔があったげろ。
やじいんどんのあんさが町へ買物にいったと。
峠の杉林のそばを通るとき、きれいなあねさが、杉っぱを拾っていて、あんさがそばを通ろうとすると
「あんさ、あんさ、町へ出やるろか」
と聞くがだと。
「ああいぐぜ」
とあんさがいうと、
「悪いろも、油揚三枚買うてきてもろんねろか」
とたのむんだんが、
「あいあい」
というて町へ行ったと。町でどうろ買物して、油揚もこうて峠へ来たと。
ほうしたら、またそのあねさがでてきて
「油揚こうてきてもろうたろか」
と聞くんだんが油揚をわたしたと。
ほうしたら、あねさが、
「ちいとばか悪いろも、面白いどこへ連れていぐすけ、ついてきてもらわんねろか」
とたのんだと。
「これはおかしなこという人ら」
と思うたろども、ついていってみたと。ほうしたらあねさが、
「おれにいっときばれてくんねか」
というだと。あんさは、そのあねさにばれたら、きれいな座敷に連れていがれたと。
ほうしてそのあねさが、
「おらこの家は、おればっかだすけ、婿になってくんねか」
というだと。あんさは、
「おれも家へいげや、かかも子もいるが、ちいとぐらいだけやいいこてや」
というて承知したと。ほうしたら、あねさは
「おらどこは、なんも仕事はねえろも家来がじょんならんほろ(数えられぬほど大勢)いるすけ、家来がきたら高座に上っていて、『ものども、人を化(ま)かすな。耕作(こうさく)いためんな』となってくれれば、そっでいいがんだ」
というんだんが、あんさは、高座で
「ものども、人を化かすな、耕作いためんな」
となって(叫んで)いたと。家じゃあ、あんさがいっこうこねんだんが、貝吹いて村中の衆集(しょうあつ)めて、大さぎだったと。
ほうして、山捜(やまさが)しにいぐと、あんさが、高いこよにゅう(堆肥塚)の上で、なっているがだっと。
「こらあ、きつねに化かされたざい」
というて、背中どちんとはたいたら、やっと気がついたと。
これでいきがすぽーんときれた。
楢沢 五十嵐石三
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