新潟県の名人級の語り部を選定し収録した越後の昔話CD。語りの達人と言われる古老が地の方言で語る貴重で楽しい新潟県民話語りの醍醐味をご堪能ください。民話ファンや昔話の語り部を目ざす方は是非聞いてみたい昔話CDです。

榎峠のおおかみ退治

新潟県長岡市小国町渋みと軽みの昔話

榎峠のおおかみ退治

新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。

昔、昔、山野田(やまんた)の村の衆(しょ)は馬をいっぺい(たくさん)飼うていたと。

その馬がときどき、がんくらおち(崖から落ちる)したり病気んなったりして死んだと。

ほうしっと村ん衆は晩がたんなるがん待ってて、馬の死んだがん、天神山のてっぺんまでひきずっていって、高いがけから下の沢ヘズドーンと、びちゃって(捨てて)くるがだったと。

そうしっとその晩はどっからともなくおおかみが馬の肉を食いに方々から集まってきたと。

ウォーンとほえるおおかみの声が山中へひびいて、なじょんかおっかなかったと。村の衆は

「おっかない、おっかない」

というて、その晩は誰も外へ出るがんはいなかったと。

さて話はかわって昔は、大沢や山野田の衆が東京へいぐ時にゃ、榎峠から千手、治郎が峰峠を通って行ったんだと。

背中へ荷物一ぺい積んだ馬をひいていぐんだんがたいそうなんぎらったと。

それを見かねてあるろこの婆さまが、榎峠へ茶店を出して旅の人にお茶を飲ましたり、休ましたりしたと。

ある晩、婆さまが夕飯おやして

「さて、へえ寝ようかな」

と思うていると、トントン、トントンと戸をたたく音がしたと。

婆さまが戸をあけて見ると見たこともねい男が一人立っていて、

「おれあ、ここまで来たろも、日は暮れるし、腹あへってなんぎいし、とても峠越されそうげもねいすけ、一晩泊めてくんねか」

と頼んだと。婆さまは気の毒らと思うて

「なっじょも、なつじょも、さあはいらっしゃい」

というて中へ連れこんで夕飯こしょうてたべさしたと。

さまざまの話をしているうちに夜もふけたんなんが

「さあ寝ようぜ」

というて床とって寝たと。

そのうちに婆さま昼のつかれでぐっすりねってしもうたと。

ほうしってさっきの男がたちまちおっかねいおおかみになってごうぎな牙をむき出したかと思うと婆さまにガブッと噛みついたと。婆さまはたまげて

「助けてくれーっ」

と大声だしたろもなんしろ峠の一軒家らなんが、だれも助けるもんもいねんだんが、とうとうおおかみに食われて死んでしもうたと。

つぎの朝げになると人食いおおかみはちゃんと婆さまに化けて峠通る人にお茶飲ましていたと。村の衆は

「どうもきんなまでの婆さまと今日の婆さまはちごうようらぞ」

そういってこそこそ話していたと。

「もし何かが化けているがだけや、かもうんでおかんねぜ」

「そうらの、そらあいっこう退治しなけやならんの」

そういって話しおうたと。

それからだいぶたったある夜の気(け)のいい晩に大沢の衆らろう(人たちだろう)、物好きの若い衆が

「おれが退治してくっだ」

そういうて榎峠へ出かけて行ったと。

峠の茶屋へついた若い衆は、こっそりと煙出(けぶだ)しの穴から中のぞいて見たと。

へえ夕飯が終えたやら婆さまあ向こうむいて茶わん洗いしていたと。

よーく見ると、そのけつからシッポがちょこん、ちょこんと出るがだと。

「ハハーン、こらあおおかみらな。おれが正体つかんだぞ」

思いながら、じーと穴からのぞいていたと。

そのうちに寝るろうと思うてたら、婆さまあ、そばへあった長持ちのふたをとって、ヒョイととびこんだと。若い衆は

「よしよし、こらあいいろこへとびこんだぞ」

そう思うて、婆さまが寝入るがん待っていたと。

そのうちに長持ん中からグーグーといびきが聞こえてきたと。

よーしきたてがっで若い衆は中へ入って長持ちの鍵をガチャンとかけたと。

よしよしうまくいったと思うて、こっだ釜ん中へ湯をどんどんわかしたと。

それからキリで長持ちのふたに「キリ、キリ」と穴をあけたと。

ほうして中の婆さまあ

「きょうあ、夜の気がいいんだすけ、キリキリ虫がなきゃらる」

そういうたと。若い衆がもう一つ穴をキリキリとあけると、また婆さまあ

「きょうあ、夜の気がいいんだすけ、キリキリ虫がなきゃら」

そう言うたと。

若い衆はおかしくておかしくてどうしようもねいろも、よーしと我慢していたと。

そのうちに湯がグヮラグヮラと煮立ってきたんだんが、その湯をさっきなあけた穴ん中へつぎこんだと。ほうしっと中の婆さまあ

「あったけんだすけ、ねずみが、あっつい小便こきゃら」

そう言うたと、また次の穴へどんどんつぎこんだと。婆さまあ

「あったけんだすけ、ねずみがあっつい小便こきゃら」

また言うたと。

そうしているうちに、どんどんどんどん熱い湯をかけるんだんが、とうとう長持ん中あ煮湯(にえゆ)でいっぺいんなったと。婆さまあ

「ヒャー助けてくれー」

ともがいたうも鍵あかかっているし、出ることあならんで、とうとう長持ん中で死んでしもうたと。

若い衆はおおかみを退冶して大手柄たてたんなんが村へ帰ってその話、えんな(みんな)に聞かしたと。

それからてんなあ、峠へおおかみが出ねようになったと。

いきが、スボーンとさけた。

山野田 牧野スミ

おはなし

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