新潟県の名人級の語り部を選定し収録した越後の昔話CD。語りの達人と言われる古老が地の方言で語る貴重で楽しい新潟県民話語りの醍醐味をご堪能ください。民話ファンや昔話の語り部を目ざす方は是非聞いてみたい昔話CDです。

かちかち山

新潟県長岡市小国町けっこう笑える昔話

かちかち山

新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。

とんと昔があったげろ。

たぬきとうさぎがいたと。

あるどき、うさぎが、たぬきに

「ぼよ出し(柴運び)しるすけ、あいほ(手伝い)に来てくれや」

とたのんだと。たぬきは喜んで、

「あい、あい」

と承知したと。二人して、ぼよかずいて、坂をおりる時、うさぎが、

「おらあ、足がおそいすけ、なあ先歩(え)んでくれや」

いうて、たぬきを前にしてあえばしたと。

たぬきが前になってあえんでいると、後の方で、かちん、かちんと音がしるがんだと。

「うさぎどん、うさぎどん、かちんかちん鳴っているありゃなんだい」

と聞くんだんが、うさぎは、

「あれは、かちかちやまのかちかち鳥ら」

というて知らんふりしていたと。

またちいとばかめる(過ぎる)と、ぼうぼうと鳴る音がしるんだんが、たぬきが

「うさぎどん、うさぎどん、ぼうぼう鳴っているありゃなんだい」

と聞くんだんが、うさぎは

「あれはぼうぼう山のぼうぼう鳥だ」

というて知らんふりしていたと。

そのうちに、背中が、あっつうなってきて、たぬきは、ごうぎなやけどしてしもうたと。

うさぎは知らんこまにどっかへ逃げていってしもうたと。たぬきは

「うさぎどんのために、とんだめにおうた」

とばかになってうさぎを捜したと。

ほうしたら、竹やぶの中に、竹切っているうさぎがいるんだんが、たぬきが

「うさぎどん、うさぎどん、おれはなあのために、ごうぎなやけどして、えらいめにおうた」

というたと。ほうしたろも、うさぎは、

「竹やぶのうさぎは竹やぶのうさぎ、おらそっげのこと、知ったこんだねえ」

というがだと。たぬきは、仕方ねんだんが

「お前は、こっげの竹やぶの中で、竹なんか切って、なんのしるがだい」

と聞いてみたと。うさぎは、

「竹でけつを縫うて、あっぱの出ないようにするがんだ。そうせや、まんまもちいとしか食(くわ)んでいいねか」

というだんが、たぬきは、これはいいこと聞いたと思うて、

「だけや、俺にもそうしてくれや」

というて、うさぎにたのんで、けつを縫うてもろうたと。

ほうして、ちいとばかめて、あっぱが出てろも、出ねで、苦しくてどうしょうもねんだんが、うさぎに聞こうと思うて、かけずり回って捜したと。

ほうしると、たれ(蓼(たで))原でうさぎがたれをつんでいたと。たぬきが、

「うさぎどん、うさぎどん、俺は、なあのために、けつぬうてもろうたら苦しくて、どうしよもねえ」

というと、うさぎは、

「竹やぶのうさぎは竹やぶのうさぎ、たれ原のうさぎは、たれ原のうさぎ、おらそっげのこと知らねえ」

というんだんが、たぬきは、それはそうろうと思うて、

「お前さん、たれなんかつんで、なんのしるがだい」

と聞いてみたと。ほうしたらうさぎは、

「たれはやけどの薬だこてや」

というがだと。

こらあいいこと聞いたと思うて、たぬきは、

「だけや、俺の背中のやけどのどこへ、つけてくんねか」

とたのむがだと。うさぎは、

「これはどうろ(たくさん)つけねと、きかんがだ」

というて、やけどのどこへ、どうろつけたと。

ほうしたら、しょんでしょんで(しみてしみて)、どうしょうもなかったと。

「あのうっそこきうさぎめ、どこへ行きぁがった」

とたぬきはばかになって捜したと。

ほうしたら、高い木のてっじょうで、うさぎが木の枝おろしていたと。たぬきは

「うさぎどん、うさぎどん、なあのために、やけどのどこへたれつけてもろうたら、しょんでしょんでえらいめにおうた」

と怒っていうたら、うさぎは、

「たれ原のうさぎはたれ原のうさぎ、杉原のうさぎは、杉原のうさぎ、おら、あっげんがん知らね」

というて、かーん、かーんと木を切っているがだと。

たぬきは、それもそうろうと思うて

「お前さん、木なんか切ってなにしるがだい」

と聞いてみたと。うさぎは、

「舟でも作って魚釣(いおつ)りへでもいこうかと思うて」

というたと。たぬきも、

「だけや、おれもつれていってくんねか」

とたのんだと。

うさぎは杉の木の舟を作り、たぬきにやべとの舟をつくってやって、海へ魚釣りに出かけたと。

そのうちに、舟が沖ヘ出たころになると、

「杉舟はぷいっとせい、ちち舟はかっくらせ。杉舟はぷいっとせい、ちち舟はかっくらせ」

と歌うて、かい棒でたぬきののっていたべと舟をぱしん、ぱしんとはたくんだんが、べと舟はひびがはいって、そこから水が入ってきて、沈んでしもうて、たぬきも死んでしもうたと。

その近くに、家がたっていたろも、ちょうど彼岸の中日だったんだすけ、親どんはお寺まいりにいって、家は、子供ばっかだったと。

その家へ、うさぎがはいってきて、いうたと。

「ねら、とと煮えてくれるすけ、鍋貸せや」

ほうしたら、子供がいうたと。

「うちの衆が、留守の間、だっでも家の中へ入れんなというたすけ、いっだんねえ」

だあろも、あんまうさぎがいうんだんが、しめいには、戸あけてうさぎを中へ入れたと。

うさぎは、なべ借りて、ごっつぉして、食わし、歌を歌うて遊んだと。

そのうちに、親ろんがもどってきて、子供に

「ねら、るすのうちに、だっでもこねかったかや」

と聞くろも、子供は、おこられるとおごっだんだんが、

「だっでもこねえぜ」

とうっそいうたと。

「うっそこけ、仏様へたぬきのきんたまがあがってるねか」

と親がいうんだんが、子供もだまっていらんねなって

「白い着物着た人が来たろも、だまっていれというんだんが、黙っていたがんだぜ」

というたと。

「そらろう。ほうして、その人どこへいったや」

と聞くと、子供は、

「後にいって寝ているぜ」

というたと。

「はや、鉈もってこいや」

と親ろんがいうたら、上の子はほうき持っていったと。

「なたもってこいてえ」

とまた親ろんがいうと、二番目の子は槌もっていぐがだと。

やっと三番目の子が鉈もっていったんだんが、その鉈で、寝ているうさぎのしっぽ切ったと。

そっで、今でもうさぎのしっぽは短いがんだと。

これでいきがすぽーんと切れた。

楢沢 高橋篤太郎

おはなし

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