花咲か爺い
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
とんと昔があったてや。
爺さと婆さがいて子供がなかった。
婆さが洗濯していたら、上の方から香箱(お香を入れてある箱)が二つ流れて来た。婆さが、
「実のいった香箱はこっちへ来い。実のいらん香箱はあっちへいげ」
というと、一つの香箱が婆さの方へ来た。
洗濯もんでくるんで、家へもってきて、へんなかで焙ったら、ポーンというて割れて、中にいごの子(犬の子)がはいっていた。
爺さと婆さが、いごの子に、
「なあ、なんがいっち好きら」
ときくと、いごの子は、
「だんごが好きら、わんわん」
といったと。爺さと婆さは、
「そうらかい、そうらかい」
というて、だんご汁して、だんごはいんないごの子に食わして、てめえたちは、汁や茶ばっか飲んでいた。
いごの子は、だんだんでっかなって、畑仕事に連れていった。
ほうしたら、しょっべんこいたんだんが、そこを掘ってみたら、金瓶がふさって(うまって)いた。
それを家へ持ってきて、家の中にガラガラとこぼしたら、それを隣の婆さが聞こえつけて、
「となりの爺さまは、金もうけしゃるがんに、おらうちの爺さは、のか火でへっぐり(きんたま)ばっか焙っている」
というて、かぎんこぶっけた。ほうしたら、爺さも、
「こうしちゃいらんね」
というがで、隣にいって、
「ここんしょは、なんで金儲けしやったい」
と聞いた。
ほうしたら、その家の爺さが、
「おらこは犬ころに団子食わしたら、でっこなって、おらに金瓶のあるどこおせてくれたがんそう」
というんだんが
「じゃ、おらにもその犬かしてくれ」
というて、犬借りてきた。団子汁したろも、団子は食(か)せんで、汁ばっか飲ましていたがっだと。
ほうして、犬が、いやがっているがんの、畑へ連れていった。ほうして
「ここほれわんわんと言え」
とむりやりいわせで、掘ってみたら、かわらけみてえの、きったねがんばっか出た。
爺さはきもやいて、その犬殺してしもうた。隣の人がきて
「貸した犬、いくしてくれ」
というたうも、その爺さは、
「きったねがんばっか、べとの中から出てくるんだんが、きもがやけて(怒って)殺してしもうた。めいたろこへ、松の木一本ええて(植えて)おいたすけ、そっでももっていげ」
というた。
爺さは、その木、こやししてでっかして、太らしてから、その木でいすまいた(臼を作った)。
それを爺さと婆さが引くと、爺さの方から小粒が出て、婆さの方から小判がでた。
隣の婆さは、それを見て、
「隣りの爺いたちは、金もうけしやるが、おらじいたちは、のか火でへっぐりばっかあぶっている」
というんだんが、爺さはまた
「となりへいって聞いてくらあ」
というて、隣りの家へいって金もうけのわけをきいたと。
ほうしたら、その爺さが、
「犬の埋めたろこへ立っていた松の木で臼作ったら、こっげの金が出た」
というてきかした。ほうしるんだんが、爺さは、
「おんに、うす貸してくれ」
というで、臼借りてきで、隣りの爺さと婆さが臼を引いたと。ほうしたら
「婆さのほうは牛の糞ががしゃがしゃ、爺さのほうは馬の糞ががしゃがしゃ」
というて出た。
爺さはおこって、臼を割ってへん中にくべてしもうた。
臼を貸した爺さが、
「臼返してくれ」
というて、取りにきたら、隣の爺さは、
「へん中へくべた。灰でももっていげ」
というんだんが、爺さは、灰をもろうてきた。
夜が明けて、役人が駕籠に乗って、ぎしがたぎしがたお通りになった。
爺さが、木の上で紙かごの中に灰をいれて待っていると、役人が、
「そこにいるのは、何者ぞ」
ときかっしゃるんだんが、
「日本一の花咲爺」
というて、灰をまくと、いろいろな花が見事に咲いた。
役人は、喜んで
「下へ降りて来い、褒美をやる」
というて、褒美をいっぺいくれた。
隣の爺さもそのまねして、灰をまいたら、役人の目の中へ入るやら、鼻の中へ入るやらして、ごうぎ怒って、爺さを刀で切った。
ばさは、爺さがいっぺい褒美をもろうてくると思うて待っていたら、爺さは、血だらまっかになってくるがんだと。
婆さは、それを見て
「金欄を着て来た」
というて喜んだろも、爺さは、そのうちに死んだと。
法坂 樋ロソメ
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