人年貢とるむじな
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
とんと昔があったげろ。
村の八幡様は、毎年娘を一人ずつ人年貢(人身御供)としてとるという話だったと。
その村へ六部(ろくぶ・遊行僧)が鉦(かね)をたたいてきて、旦那様の家へ行ぐと、家中の衆が泣いているがっだと。六部はたまげて
「ここん衆、なんで泣いてやるい」
と聞いてみると、
「おらの村の八幡様は、毎年、村の娘を一人ずつ人年貢として取るだろも、今年はおらこがその番にあたっているんだんが、おごとれ(こまって)泣いているがだ」
というてかしたと。
「そっげのこと心配しねえでいいこっつぉ(いいですよ)、おがかわりにいってやるぜ」
というがだと。
そこの家じゃ、ごうぎ喜んでどうろごっつぉ食わしたと。
ほうして、娘のかわりに、六部を箱の中へ入れて、八幡様に納め申したと。
六部は、八播様へ着くとすぐ、箱の中から出て八幡様の縁の下へ隠れたと。
そのうちに、天井からギシ、ギシと音がして、二匹のむじなが出てきたと。
「おう、今夜もごっつぉが来ているが、ひとつ唄って踊って腹減らしてから食おうねか」
「そうら、そうら」
ほうして、二匹して
「しんしきしんしき、しんこんぼう、はありさまのへいそへそみかんの国のぺいそたらあに、そうてこのこと言うて聞かせるな。しんしきしんしき、しんこんぼうはありさまのへいそへそみかんの国のぺいそたらあに、そうてこのこと言うて聞かせるな」
と唄うて、かわりばんこに踊っていたと。
そのうちに、一匹のむじなが、
「踊ってばっかいても腹が減っておごっだ。そろそろさかな食おうねか」
というと、もう一匹も
「そうら、そうら」
というて、箱のふたとってみたとこてんが、中はからっぽだったと。
「あきたな、きょうはさかながねよ、腹が減っておごったろも、あしたにしょうねか」
というて、天井へするすると上がっていってしもうたと。
六部は、縁の下で、この話をいんな聞いてしもうたんだんが、
「これはいいこと聞いた。さっそく、村の人に知らせてやろう」
と思うて、夜があけるがん、待っていたと。
そのうちに、あこの家の鶏(とり)がなく、ここの家の鶏がなくして、夜が明けて、六部が村へもどって来たら、死んだと思っていた人が生きていたんだんが、村中の人がたまげたと。ほうして、六部は
「あれは、八幡様どこんじゃねえ、でっけえむじなが、人食っているがんだ」
というてきかせると、村の衆はたまげて
「どうしたら、退治しゃれるろ」
と聞いたと。六部が
「みかんの国にぺいそたらあという犬がいたら借りて来てくんねか。ほうせやおが退治しるすけ」
と言うんだんが、急いでみかんの国から、ぺいそたらあという犬借りてきて、どうろまんま炊いて食わしたと。
次の晩方、村の若い衆が、六部とぺいそたらあを二つの箱に入れて、八幡様へかずいていったと。
ほうしると、また天井から二匹のむじなが下りてきて
「おお、きょうは、きんなの分まで箱が二つ来ているぞ」
というて、二匹して喜んで喜んで、
「しんしきしんしきしんこんぼう、はありさまのへいそへそ。みかんの国のぺいそたらあに、そうてこのこと言うて聞かせるな。しんしきしんしきしんこんぼう、はありさまのへいそへそ。みかんの国のぺいそたらあに、そうてこのこと言うて聞かせるな。どんどん、どんどん」
と踊っていたと。
これを箱の中で聞いていたぺいそたらあは、むじなを食いたくて食いたくて、ふうふういうていたと。
そのうち、踊りが終って、
「腹が減ったが、そろそろ食おうねか」
というて、箱のふたを開けたとこてんが、ぺいそたらあが、とびついていったと。
六部も箱の中から出て、
「ほうら、ぺいそたらあ食い。ほうら、ぺいそたらあ食い」
とけしかけたんだんが、むじなを二匹食い殺してしもうたと。
朝げになって、貝吹いて村の衆集めて、火焚いて死んだむじなを村中の人に見したと。
六部は、村の人からどうろ金もろうたと。
こんでいきが、すぽーんときれた。
楢沢 高橋篤太郎
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