からかさと瓶と石
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
昔あったげだ。
秋山の人が十日町から嫁もろうたと。
ちょうど雨降りだったんだんが、からかささして来たと。
秋山の家の衆は、からかさなんて初めて見たんだんが
「さあおおごっだ。あっげのごうぎのがんさして、家の中へ入らんね」
というで、大さわぎして戸をはずしたりしたと。
ほうしたら、嫁は、家へはいるとき、そのからかさをひょこんとしょごめたと。
「町てや、なったらおかしなもんがあるがだい」
というて、秋山の衆はいんなたまげてしもうたと。
十日町で祝言のあった晩、夕飯に出された砂糖ぼたもちがうまくて、聟はどうろ食ったと。
まだ食いたくておごっだんだんが、家の衆がぼたもち入れた瓶をどこへしもうやらと見ていたら、戸棚にしもうたと。
夜さるになって、いんな寝てから、戸棚を開けて瓶出して食ったら、うまかったんだんが、瓶の中に頭つっこんで食っていたと。
ほうしたら、こっだ頭出そうとしても出さんねなったと。
おごとだんだんが、瓶かぶって便所の隅に隠れていたと。
ほうしたら、そこへ祝言によばれたお客が来て、便所へ入ったろも、紙がなくて、石でけつ拭(ぬぐ)うてそれをぽんとぶちゃったら、ちょうど瓶にあたって、瓶が割れたと。
その下に聟が隠れていたんだんが、客はたまげて
「おめえさんまた、どうしてそっげのどこへいるがだい」
ときいたと。聟は、
「ぼたもちが食いたくて戸棚捜したら、瓶の中に入っていて、食ってみたらあんまるうまくてうまくて。瓶の中に頭つっこんで食っていたら、頭が出さんねなってしもうて」
というたと。
ほうして、二人は、聟がぼたもち盗み食いしたことと、客が石でけつ拭うたことを決して話さないしようときめたと。
次の朝げ、祝言の席で、そのお客が、「つるかめ」と唄をうとうたんだんが、聟は、
「瓶のこというと、石のこともいうぞ」
というたと。
これでいちがさらーんとさけた。
八王子 中村ヒロ
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