星の精
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
とんと昔があったげろ。
ある村にひとりものの兄(あん)さが、山で畑仕事していたと。
そこへきれいな娘が通ったので、どこの人らろうと思っていたと。
ほうしたら、またつぐの日もそのあたりへきて、へらくら(うろうろ)していたんだんが、兄さは、
「なあ、どこの人だい、どこへいぐがんだ」
ときいたと。ほうしたら娘は、
「おら前には天に住んでいたんだろも、流れ星で下界へおってしもうて、行くどこもなくて、こうしてぶらぶらしている。天からおった星の精だ」といったと。
娘があんまりしょぼんとしているんだんが、兄さは、
「それは気の毒だ。おらこは、おれひとりだすけ、おらこへこねいか」というたら、
「なじょもお願いします」
というて、ついてきたと。
娘は、見慣れ、聞き慣れして、まんまも上手にたいてくれるし、二人は、都合よく暮らしていたと。
そうしたら、それを天の近くに住んでいる鬼がかぎつけてきて、いろいろ難題しかけるだと。
ある日、兄さが山で仕事している所へ紙が落ちてきて、何が書いてあるがだろうと思ってみたと。
ほうしたら、紙には、
「おまえは、嫁をもらったてんが、灰縄(はいなわ)じょらん(※不明)をこしらえて持ってこい。持ってこないと嫁を引き取ってしまう」
と書いてあったと。
兄さは、たまげて、家へとんできて、あねさに相談したと、あねさは、
「そっげのがん、じょうさもない、おがこしらってやるすけい、村の若い衆五、六人頼んで下され」というがだと。
あねさは、藁をよくたたいて、力まかせに、若い衆から太い太い縄をなってもらい、灰火の上で、上手にもやして、きれいになったら、くずれねようにいれもんにのせて、山のふもとへ置いてきたと。
四、五日めると、また兄さが山から紙もって、心配げに来たと。また何かあったと思うて、あねさが紙を見(め)ると、こんどは、
「打たぬ太鼓に鳴る太鼓、うっすきずのうにそでかぶり(※不明)をこしろうて来い」
と書いてあったと。あねさは、
「そんげのがん、じょうさもねえ」
というて、二つの粉ふるいの底を抜いて、両方へ丈夫なきがみ(和紙)張ってあわせ、中に蜂を一匹入れておけば、中で蜂があたけて、ボンボン音がしるすけ、それもっていげと教えてくれたと。
こんだ三番目に、天の羽衣を持ってこいと紙に書いてあったんだんが、またあねさにいうたら、あねさは、
「そらあ大へんだ、羽衣はめんどうで、困った、困った」
というているうちに、いつのまにかあねさはさらがわれて(さらわれて)いってしもうたと。
あねさは、鬼のばんばにいってみると、鬼は、夜になると、唄ったり、踊ったりするがだと。ほうしてあねさに
「笛を吹け」
というんだんが、あねさは、
「亭主のどこへ行きたい、亭主のどこへ行きたい」
と吹いたと。鬼は
「ああ、上手、上手」
とほめたと。あねさは、こんどは、
「おらこの亭主は、おれよかもっと上手だぜ」
というたと。ほうしたら鬼は、
「じゃ、ここに亭主を連れて来て、どっちが上手だか、俺の前で吹いてみれ」
というて二人して一緒に吹くことになったと。あねさは、
「亭主と一緒にいきたい。亭主と一緒にいきたい」
と吹いたら、兄さが、
「かかと一緒にいきたい、かかと一緒にいきたい」
と吹いたと。そうしているうちに、鬼は、あんまりおきょうすいて(はしゃいで)踊り疲れて、ばたんと寝てしもうたと。
あねさは、この間に逃げようと思うて、天の方向いて、
「くじゃくほう、くじゃくほう」
とよんだら、孔雀が二羽ぱっぱっと来て、二人が、それにのって、あねさが、また、
「くじゃくほう、くじゃくほう」
というと、ぱっぱーと下の方へつれてきてくれて、しあわせにくらしたと。
それで、いきがぽんとさけた。
苔野島 粕川クラ
……もっと読んでみたい昔話