鶴の織物
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
爺さと婆さが食いようがねんだんが、婆さが苧(お)を績(う)んで、売りにいぐことになったてや。
爺さがそれを町まで売りに行って、帰りしなに子供が鶴をつかめて遊んでいるがん見たと。
爺さは、可愛いそげになったんだんが、
「ねらねら、その鶴、俺に売ってくれや」
というて、苧を売った銭でその鶴を買うたと。ほうして、
「鶴や、こっだこんげの子供に捕まるなや」
というて、たたしてやったと。
爺さは、家に来て、婆さに
「子供が、かわいげな鶴をいじめていたんだんが、苧売った銭で買うてたたしてやったがだ」
というたら、婆さも
「いいこて、いいこて」
というて喜んでいたと。
その夜さるに、若い娘が爺さ婆さのうちに、
「とめてくらさい」
というたんだんが、
「なじょうも、なじょうも」
と泊めてやったと。
それからいつかたっても行ぎそうもなくて、しめえに、
「ここの子にしてくんねか」
というたと。
爺さも婆さも子がいねかったんだんが、子にしてやったと。娘は
「おが毎日機を織るすけ、機織るどこ見ねえでくんねか」
というて、毎日毎日機織っていたと。
そのうちに、
「爺さ、機が出来たすけ、町へ売りにいってくれ」
というんだんが、爺さが売りにいったら、なじょんかいい値で売れたと。娘は、
「おがもう一反織るすけ、ほこ(ここ)へ入っているがん見てくれんな」
と言うて、もうちっとしかない毛で織っていたと。
爺さと婆さは見たくておごとだんだんが、見たら、鶴が機を織っていたと。
爺さも婆さもたまげたと。娘は部屋から出てきて、
「おがあっげに見んなというがんに、もう一反織ろうと思ったろも、見られてしもたすけ、作らんね。あの時、助けられた鶴らろも、お世話になりました」
というて、ぱーっとたっていったと。
いちがさらんとさけた。
八王子 中村ヒロ
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