菖蒲湯の由来
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
昔あったげだ。
一人娘が、いい男に惚れて毎晩、娘のどこへ男が通って来たと。
あんまりいい男だんだんが、家の衆が、
「あたりめえの男でねえすけ、着物の裾へ針一本刺してみれや」
と娘にいうて、娘もいう通り糸のついた針をさしたと。
ほうして、針についた糸伝うていって見たら、山の中の池へ続いていて、男は池の中にだぼんと入って、大へっびになったと。
男は、体に針刺されてうなっていたと。男の親が、
「おめえは、夜遊びばっか出ているすけそうろう」
というがんが聞こえたと。ほうしたら、男が、
「おれは、あの娘に、子千匹孕(こせんひきはら)まして来たすけ、大丈夫ら」
というたと。ほうしたら
「いくら子孕ましても、五月の節句に菖蒲湯にはいれや、いんな下ってしもうねか」
と男の親がいうたと。
この話を聞いていた娘の親ろん(たち)は、
「これはいいこと聞いた」
と思うて、娘を五月の節句に、菖蒲湯に入れたら、蛇の子をいんなくだして、それで五月四日には、菖蒲湯をたて、家のまわりには、窓々へ菖蒲を挿すがんだ。
魔物が、家の中に入らんようにするがんだと。
いきがさらーんとさけた。
八王子 中村ヒロ
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