さるの聟
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
とんと昔があったげろ。
爺(じ)さが山の畑であわの草取りしていたろも、あんまりたいそうだんだんが(疲れたので)、
「だれか、この草取ってくれるがんがいたら、娘の子三人持ったが、だれか一人でも嫁にくれようが」
と一人言いうたと。ほうしると、山のさるが出て来て
「爺さ爺さ、お前今なんの言うたい」
と聞くがっだと。
「おら、なんもいわんじゃ」
爺さがいうても、さるは、
「お前、なんかいうたねか」
というて、きかねんだんが、爺さは
「あんまるあわの草取りがたいそうだんだんが、このあわの草取ってくれるもんがいたら娘の子三人持ったが、一人嫁にくれてもよいがというたがんだ」
いうたと。ほうしたらさるが
「じゃ、おがこの草取るすけ、おれに娘一人くんねか」
というて、ちゃがちゃがとあわの草取ってしもうたと。ほうして
「三日したら、おが迎えにいぐすけ」
というて、その日は別れたと。
爺さは、これはおおごとのこときめてしもうたと思うて、家に来てもあんばいが悪くなって寝てしもうたと。
家中の者が心配して、一番上の姉娘が、爺さのどこへ来て、
「爺さ爺さ、あんばいはどうらい、湯でも茶でもやろうかい」
と聞いたんだんが、爺さは、
「湯も茶もいらんが、山のさるのどこへ嫁に行ってくれや」
とたのんだと。姉娘は、
「この馬鹿爺さ、糞爺さ、だれが山のさるのどこへなんか嫁に行がれるんだな」
と怒って、逃げていってしもうたと。二番目の姉娘が来て、
「爺さ、爺さ、あんばいはどうらい。湯でも茶でもやろうかい」
ときいたと。爺さは
「湯も茶もいらんが、山のさるのどこへ嫁にいってくれや」
と頼んだと。二番目の娘も
「この馬鹿爺さ、糞爺さ。だがさるのどこへなんか嫁にいがれるんだな」
と怒って、逃げていってしもうたと。そのうち、三番目の娘が来て、
「爺さ爺さ、あんばいはどうらい。湯でも茶でもやろうかい」
と聞いたと。爺さまは、
「湯も茶もいらんが、山のさるのどこへ嫁に行ってくれや」
とたのんだと。三番目の娘は、
「爺さのいうことだけや、なじょうもおが行ぐぜ」
承知してくれたと。爺さまは、喜んで、嫁入りの支度をいんなしてくれたと。
三日めて、さるが迎えに来たんだんが、娘はさるのどこへ嫁にいったと。
嫁にいった娘が、一泊りに家へ戻るどきになったと。さるが、
「里の爺さは、なんがいっち好きら」
と聞くんだんが、嫁は、
「おらこの爺さは、餅がいっち好きら」
というたと。
「じゃ餅ついていこう、重箱に入れていごうか」
とさるが聞くと、
「おらこの爺さは、重箱臭いというてだめら」
「じゃ、わっぱの中へいれていこうか」
「わっぱは、わっぱ臭くてだめら。おらこの爺さは、臼の中へ入れて搗き搗きした餅がいっち好きら」
と嫁がいうんだすけ、さるが臼かずいて、嫁が後から、つきつきして、ついていったと。
ちょうど川のはたへ来ると、そこへきれいな桜の花が咲いていたと。
それを見て嫁が
「あこへきれいな桜が咲いているざい。あの一枝とっていったら、爺さもどっげ喜ぶやら」
というと、さるが
「じゃ、おが取ってきてやらあ」
というて、かずいていた臼をおろそうとしたと。嫁がそれを見て、
「ごっげんどこへ、臼おろせや、おらこの爺さが、べとくさくてやあがるすけ、かずいたまま、木に上ってくんねか」
というんだんが、仕方なしにさるは、臼かずいたまま木にのぼったと。木の上で
「この枝でいいか」
とさるが聞くと、
「もっと、てっじょう(上)の枝がきれらねか」
というがだと。
また上へのぼって
「この枝でいいか」
と聞くと、
「もっと、てっじょうの枝がきれいらねか」
というんだんが、また上へのぼると、さるは、川の中へぼちゃーんと落ってしもうたと。
ほうして、下の方へ流れしまに、
「さるはさる川へ流れども、命はおしくないろも、後へ残れる嫁女(よめじょ)がこいし、こいし」
と唄うていったと。
これでいきがすぽーんときれた。
楢沢 高橋篤太郎
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